白い空、蒼い雲。快晴の空の元、少女は自転車にまたがり駆け出していった。
少女の名は針志麻 ミナ。この小説における、ヒロイン。
ミナ「鍬利くんは家にいるのでしょうか?それでは、突撃リポートぉ。」
いつの間にハヤトの家の前についたのか、自転車を止めた。
って、言うか誰に話し掛けてるんだ?
門の前まで行き、インターホンを押す。
ピンポーン。
一度目。誰も出てくる気配がない。
ピンポーン、ピンポーン。
二度目。まだ誰も出てこようとしない。インターホンにおいていた人差し指に代わり、親指を置く。
レッツトライ。
ピンポピンポポンピンポポンピピピンピポピポンピンポパポピンポンーンポンピンポーン。
三度目。慌てて誰か出てくる。
ハヤト「ミナ!うちのインターホンは連射ゲーじゃないぞ!1秒間に16連打したって景品なんか出ないって何度も言っただろ!!」
なにか微妙に露点がずれてるような気がする。
ミナ「前に言ってたでしょ?”俺を呼び出すにはインターホンを1秒間に16連打しろ”って。」
悪意がでてるような笑み。非道。
ハヤト「エクスでもあるまいしそんな事言うか!だいたいそれって高橋某名人じゃないか!」
ミナ「そう怒らない怒らない。今日は買出しに付き合って欲しいんだけど…ダメ?」
上目遣いの頼み、俺はこれには弱いんだよ…。
ハヤト「…今日は暇だし…いいぞ。」
頭を掻くしかない。こんな場合。
ミナ「やったぁ。そんじゃ、早速行きましょ。」
満面の笑みで喜んでくれるミナ。この笑顔が見れるんなら悪くはないが…。
ハヤト「ちょっちまってくれ。着替えてくる。」
そう、今の俺の服装はパジャマ。これじゃ外に出れん。
ミナ「うん、中でまってるね。」
俺の了解も得ないまま中に勝手に入ってしまった。
ずんずん居間まで進んでいく。
居間に着き、冷蔵庫を空ける。勝手しったるなんとやらってやつか。そういえば今日は母さんいないんだっけ。
ミナ「今日は私がお昼ご飯作ってあげるね。まだ食べてないんでしょ?」
ハヤト「うん、まぁ。」
壁にかけてある母さんのエプロンをつけ、フライパンを電気コンロの上に置き、油をかける。
ミナ「ほら、てきぱきと。さっさと着替えちゃう。」
ハヤト「お、おう。」
なんだか母親みたいだなぁ。
階段を上り、自分の部屋に入る。
だらしないな、俺。殺伐とした、ガラクタの散らかってる自分の部屋を見て思った。
一応整理整頓をしてるつもりだが俺の布団の中で眠るこいつ…エクスカリバーのせいでまた荒れてしまう。しかし、見てて思うのだが寝返りがうちづらそうだなぁ。ほら、肩の奴のせいで。
壁と一体化したタンスからいくつか服を引っ張り出し、タンスの戸を閉じる。
ハヤト「ほら、起きろエクス。遅刻するぞ。」
エクス「…今日は休む。」
なかなかやるな。この冗談にその返答とは。
ハヤト「もう12時回ってるぞ。」
エクス「それはご苦労様。」
一向に布団から出る雰囲気がない。
ハヤト「俺はもうちょっとしたら出かけるから。戸締りを頼むぞ。」
上着を黒のTシャツに着替えその上からYシャツを羽織る。
エクス「任しとけ。早速デートか?」
ズボンをはきかえる。今日はGパンだ。
ハヤト「そういう事になるかな。」
机の上においてあるバックを取り、部屋を後にする。
下に着くと居間からいい匂いがする。もうできたのかな。
ミナ「てへ、失敗しちゃった。これで我慢して。」
黒焦げの料理の横に置かれたカップメンと箸。やっぱりこういう展開になったか。
なんで俺にはこういう役しか回ってこないのだろうか。主人公も辛いもんがあるな。
カップメンを食べ終え、ミナの買い物に付き合うにした。
まずは服専門店。
幸いメダロポリスは経済中心都市の一角であり、いろいろと専門店が建ち並んでいるわけだ。ほとんどメダロット関係しか行ってないけど。
試着室のカーテンを開けて出てきたのは白いワンピースを着たミナ。
ミナ「どお?似合う?」
くるりと一回転して見せる。
ハヤト「うん、似合う似合う。」
適当に首を縦に振る。俺にはそう言うセンスがないからな。
ミナ「鍬利くんは何か買わないの?」
ハヤト「んん〜。服にはあまり興味がないからな。」
センスがないから変なのしか選べないんだよ。心の中でそっと呟く。
ミナ「じゃあ、私が選んであげる。」
ハヤト「それはありがたい。」
いくつか服を選んでもらい、レジへ持っていく。そこで気付けばよかったのだが全部俺が金を払う羽目になった。お金…あまるかなぁ。
「だーかーら俺は服なんか欲しくないって!」
「あんた馬鹿?私が欲しいんだからあんたが買いなさい!彼氏でしょ!」
どっかで見かけた23,4歳ぐらいのカップルを見かけた気にしないで置こう。
次に向かったのはゲームセンター。たくさんゲームが置かれている上に密室に近い状態なので回りの音がやたら五月蝿い。
ミナ「これとって〜。」
ミナが指差したのはクレーンゲームの中の巫女のような服装をしたうさ耳のような耳を生やした少女のぬいぐるみ。…これって――。
ふふふ…幸い俺はクレーンゲームは得意なのでな。
100円を投入し、レッツトライ。
上の矢印がかかれたボタンを押し、ちょうどよいあたりで放す。次に横の矢印がかかれたボタンを押し同じように放す。
ぬいぐるみの真上までクレーンを移動、そのあと下に移動しクレーンでそれを掴む。またもとの位置に戻るまでが緊張だ。
はいれ…はいれ…はいれ…
ミナいわくこのときの俺の目はスナイパーそのものだったとか。
クレーンが放した。穴の上で。そのまま下の受け取り口まで一直線。
ハヤト「ふぅ…とれた。」
額の汗を服の袖でぬぐう。
ミナ「さっすが鍬利くん。上出来上出来。」
ハヤト「まぁ俺にかかればこんなもの楽勝でい。」
自分でも分かる。今、自信満々な笑みを浮かべてる事を。
ミナ「はい、ご褒美。」
ミナが俺に渡してくれたのは缶ジュース。ポカ…なんとかエットって奴。ほら、青いパッケージの。
ハヤト「さんきゅ。」
栓を開け、ぐぐっといっぱいジャー。
……
………
一気で飲み干す。流石に…息が切れるな。
ミナ「よし、んじゃ最後の目的地行ってみよー。」
少しは待ってくれよ。そんな事いえないわな。
ハヤト「何処だよ。」
ミナ「ついてくれば分かるよ〜♪」
やれやれ…
ハヤト「ここって…」
俺が見上げてるのは”メダロッターズ”。そう、前にエクスがあの姿になった場所だ。メダリンク、オークション、メダロットショップが一挙揃ってる。良いお店。
ミナ「さ、いこ♪」
俺の記憶が確かならばミナはメダロットを持っていないはず…そうか、そういう事か。
ハヤト「おうよ。」
かくして俺はこの旅(謎)の最終目的地へ足を踏み入れるのだった。
意外にも中は休日にもかかわらず空いていた。
ミナ「私メダロット買おうと思うんだけどどんなのが良いかなぁ?」
やっぱりな。
ハヤト「そうだな…説明しながら言おうか。」
頭をポリポリと掻く。
ハヤト「まずは男型と女型に分かれる。これ重要。」
ミナ「それじゃあ女型ね。」
いつの間に持ってきたのかショッピングカートの籠に女型ティンペットを入れる。実は知ってるんじゃないのか、そんな考えが俺の頭の中をよぎる。
ハヤト「んで次に重要なのが射撃型、格闘型、サポート型に分かれるんだよ。」
人差し指を下唇に置き考えてる。
ちらと横を見るとTET型があった。新型、出たのか。実際に手にとって見ようと思ったがミナがどうやら決めたようなので諦めることにした。
ミナ「サポート型!」
ハヤト「分かった。じゃあ…回復型、まぁ呼んで字の通り。妨害型、これもまぁ読んで字のとおり。援護型、主にメダロットのスピードを上げるタイプだな。で、どれにする?」
大雑把過ぎるかもしれないな。しかし、俺の思考とは裏腹にミナはしっかり決めていたようだ。
ミナ「回復型!」
ハヤト「よしわかった。回復型だな。」
回復型か…ミナらしいといえばそうかもしれないな。カートを押しながら俺はこんな事を考えていた。
とある棚の前でカートを止める。
ハヤト「だいたいここに回復型は揃っている。」
といっても十うん種類しかないが。あ、それだけあれば十分か。
ミナ「え〜と、う〜んと、あ〜と。」
迷ってる姿も可愛いなぁ。なんてね。
ミナ「これ!」
ミナが指したのはTYO型モンシールスだ。エクスと同じ白いボディ、飛行型らしい背中の蝶のような羽根、能力は両腕が回復、頭部が混乱。なるほど。
ミナ「だめ?」
不安そうにミナが尋ねてくる。
ハヤト「いや、良いんじゃないか。」
単体戦でなければ。
ミナ「これで終わりね。」
ハヤト「おっとどっこい、忘れちゃーいけない物がありますぜお嬢さん。」
ちょっと時代劇風に気取ってみちゃったり。
ミナ「え?なに?」
ふふん、と得意そうに鼻を鳴らす。
ハヤト「メダロットの脳、メダル。」
なんだか今日は俺が俺らしくないような気がするのは気のせいだろうか。
ミナ「そっかぁ。」
そういえばエクスのメダルって貰いもんなんだよなぁ。きっと不良品かなんかかな。ただなんだし。
ミナ「どのメダルがいいの?ハヤトちゃん。」
…また俺の呼び方が元に戻ってる。もういいや。
ハヤト「蝶型に愛称が良いって言ったらやっぱりチョウメダルだな。」
レジの前まで行き、フックにかけてあるパッケージに入ったチョウメダルをパッケージごと取る。
この売り方はどうかと思うがな。
店員「全部で12345円になります。」
なんて値段だ!作者め手を抜いたな!
つーかさっきまでここにいたのにもう会計済ましてるし!はやいよ、おい!
ミナ「鍬利くん、遅いよ〜。」
ハヤト「わりい。」
なんだかなぁ。
空いている会計をとおり、ミナの持ってる荷物を預かる。
ハッ!もしかして俺って…荷物持ち!
ハヤト「ちょっと…オークションを見に行きたいんだが…」
そう、三階では日夜メダロット商品のオークションが行われている。と、言っても今の所持金じゃ無理かもしれない。ここはひとまず…
ハヤト「ちょっとまっててくれ。」
パーツを売りに行こう。っけこうダブってるのがあったはずだから。
……………。
……うん、結構良い金になった。
おろ、誰だあいつ。ミナに話しかけてる金髪の少年。歳は…俺と一緒あたりか。
「彼女、俺とお茶しない?」
ナンパか。
ミナ「いえ、いいですよ。今日は連れがいますから。」
よかった、断ったみたいだ。
ハヤト「おう、待たせたな。」
わざと、聞こえるように大きな声で言う。
ミナ「あ、ハヤトちゃん。」
お二人さん、こちらに気付いた様だ。
「鍬利!お前か!」
ハヤト「何故俺の名を知ってる。」
「だぁぁ!俺の名を忘れたか!」
ハヤト「忘れた。」
誰だっけこいつ。
「ほら、隣のクラスの!」
ハヤト「知らん。」
ホントに。
「ほら、花園三中の!」
ハヤト「うせろ。」
しつこいっつーの。
「てめぇ!覚えてろよ!いつかチームロボトルで倒してやる!」
ハヤト「勝手にしろ。」
いいかげんうんざりだ。
ともあれ、ようやくどこかへ消えて行ってくれた。さて、何をするんだったっけ?
ハヤト「行こうか?」
ミナ「うん。」
ハヤト「…で、何処へ行くんだったか?」
ミナ「帰るんじゃないの?」
ハヤト「そうっだったっけ?まぁいいや。送ってくけど?」
ミナ「そうねー、それじゃお願いしちゃおうかな♪」
ハヤト「それじゃお願いされますか。」
ミナの持っていた荷物を全て受け取り、メダロッターズを後にする。なんか忘れてるような…
その後帰り道でいろいろな雑談をし、ミナを家に送り届けた。
ミナ「ハヤトちゃん、今日はありがと。」
ハヤト「ん。」
ミナ「…エクスちゃん、しっかり育ててあげてね。過去の幻影を重ねちゃダメだよ。」
ハヤト「…ん。」
正直、どういう意味か分からなかった。過去の幻影?俺がエクスに過去の幻影を重ねてる?俺はエクスカリバーを”エクスカリバー”として扱ってはいない。あくまでもエクスカリバーとして見ているつもりだ。
バタン、という玄関のしまる音が俺を現実へと引き戻した。
ハヤト「エクスカリバー…か。」
元に返せば何故俺はあいつをエクスカリバーと名づけたのだろう?やっぱり、過去の幻影を重ねようとして名づけてしまったのか。
まだ太陽が明るく輝く帰り道、俺はずっと考えていたが答えは出なかった。
龍祐「とうとう来ました決勝戦!」
ライト「コレで勝てば甲子園だな。」
龍祐「でも相手の様子がなんか変。なんかこう…言い表せないけど。しかも大会の途中、すごい天候になってきた!」
ライト「次回、白きクワガタの伝説『嵐の中で…』また来週!」