「ん?」
「どうした、エクス。」
「いや、今シールドが光ったような…」
「気のせいだろ。」
白きクワガタの伝説 メモリー14 嵐の中で…
あいも変わらず薄暗い部屋。リオンSがだらしなく、流が机に頬杖をついて、龍祐がしっかりと座っている。
いつもと違うとこ、それは雰囲気だ。全員緊張したような顔。
ハヤト「異論が無いなら、これで行く。場合によっては俺とエクスが出るからな。交代ラインまで早めに引けよ。」
交代ライン。フィールドの端っこのほうに白線で引いてあるラインで、そこを越えると交代が可能。また、そこに到達せず機能停止した場合は、交代が認められない。
ハヤト「うっし、行こうぜ!勝つぞ!」
全員『おう!』
フィールドは、草原。
天候は晴れ。…今のところは。
整備は、万全。流石は十年以上も付き合ってきた仲ってわけ。
自分より2、3歩後ろにいるライトニングとファイアを見る。
右に立っているのがライトニング、左に立っているのがファイア。
十数メートル向こうにいる相手。
額に紅い宝石のようなものをつけたバイザーを付けた相手。ウイングにはそれがひどく懐かしいものに思えた。そして、それが何を意味するか理解するまではいたらなかったが。
ウイング「早めに他の2体を倒してリーダー機に集中攻撃。それで行くぞ。」
ライト「分かった。…大丈夫か?お前。」
ウイング「何が。」
ライト「こう…なんかいつもと違うぞ。お前。」
ウイング「気のせいだろ…ほら、始まるぞ。」
審判が、バイザーを下ろし、腕を上げる。
44マグナムを、右端のライトグリーンの標的に向ける。余った左腕で支え、ブレをなくす。
審判が腕を振りろす。ロボトルファイトの掛け声と共に。
リオンS「いっけぇぇ!先手ひっしょぉう!」
マグナムを連射。相手はそれをかわし、右腕のレーザーを撃った。あいにくウイングの頭部すれすれを掠っていく。
かわしたところへ、ライトのショットライフル。脚部を射貫き、動きを止めたところへファイアの火炎弾。吹き飛ぶ緑。
なかなかのコンビネーションだ。
「洗濯中、一体機能停止!」
リーダー機は、一向に動く気配が無い。その後ろにいた赤い機体は格闘戦型なのか、こっちに向かって走ってくる。
反応弾を放つウイング。真っ直ぐに飛び、そのまま命中。…のハズだった。爆炎の中から出てきた赤は無傷。肩のアーマーで防いだようだ。
しかし、事実上3対1。ウイングの攻撃を防いだところで、他の攻撃が無くなる訳ではない。
続けて放たれたライトのアペンディスターが、腹部に命中。
当たった所が、黒く焦げ、煙を上げている。
「洗濯中、サブリーダー機、機能停止。」
レフェリーが淡々と継げる。残ったのはリーダー機のみ。
ハヤト「これのまま出番無しか…主人公なのに。」
エクス「ま、出番無しにこした事は無いさぁ。」
カヤの外っつー感じ。
「そろそろいこうか。」
洗濯中リーダー機のメダロッターが呟いた。
「いいかげん待ってるのは飽きた。」
前方から飛んでくる銃弾などをシールドのようなものを張り、防ぐ。
「いくよ…エレメンタルアップ!」
額のバイザーのクリスタルが輝く。
光が彼を包んでいく。
シルエットが変化していく。
ハヤト「エ…エレメンタルアップ!?」
光が吹き飛ぶ。
風を模したような機体。中世の騎士の鎧のような腹部、KWGのような脚部のデザイン。
ウイング「そういう事か…」
リオンS『何が?』
ウイング「いや、なんでも無い。」
ウイングは白い、その機体に見覚えがあるようだった。
「いけ、残影。」
残影「おう!」
手に持っていた、ラジオのアンテナのような、教鞭のような物を振るう。
風の刃が発生し、ウイングの左を吹きぬけていく。
ウイング「ば、媒介!?」
ウイングの左を通過していく…それは、ファイアに当たる事を意味していた。
ファイア「うわぁ!」
油断していたのか、真正面から受ける形になり、後ろに、大きく吹き上げられた。
流「ええっ!?」
交代ラインギリギリにたたきつけられるファイア。
流のメダロッチが、ファイアの装甲が限界に近い事を表示している。
ハヤト「交代だ!いくぞ、エクス!」
ファイアが、交代ラインギリギリまでほふく前進で進む。
エクス「よくやった、ファイア。後は俺に任せろ。」
エクスが、フィールドに走って入る。
ファイア「よくやったって…出番全然無いじゃないか。」
芝生にひれ伏せた。
残影「水のエレメンタルが出てきたぞ。」
「なぁに、やつは媒介を持っていないからな。」
右腕の教鞭を横に振るった。
ハヤト「いくぜ、エクス。エレメンタルアップ!」
エクス「おお!」
風の刃を盾で防ぐ。ウイングはかわしたものの、動きの遅いライトが攻撃を受け、吹き飛んだ。機能停止こそしていないものの、相当なダメージを受け、動けないようだった。
盾の中心のコアが輝く。その輝きがエクスを包む。
進化。
角の模様が西洋の焼き物のようになっている。
両端を黄色で縁取ったバイザー。
背中の大きなブースター。
そして、水で構成された2本の剣。
エクス「うおおお!」
光も完全に消えないうちに、相手に向かって走り出す。
残影「媒介も持たないエレメンタルが!」
教鞭を振るい、刃を作り出す。
エクス「うるさい!媒介なんか無くたって!」
風の刃を、二本の剣で受け止める。
ハヤト『媒介ってなんだ?』
ウイング『媒介って言うのはエレメンタル用の武器だ。そもそもエレメンタルっていうのは力を作り出すだけの物。媒介って言うのはそれを相手にぶつけるための武器なんだ。エクスはそれを持ってない分あの残影とか言うやつより圧倒的に不利なんだ。』
リオンSのメダロッチを通して、ウイングの声。
リオンS「良く知ってるな。」
ウイング『まぁ、な。』
なんとか接近戦に持ち込もうとするエクスだが、風の刃に阻まれ、一定距離以上近づけないでいた。何度も攻撃を受けていたせいか、剣に小さいながらもひびが入ってきている。
天候も悪くなってきた。
風のエレメンタルと水のエレメンタルの力なのか雨が降り、風が強くなってくる。
ウイング「さて…エクスに完全に気を取られてるな。リオン。」
リオンS「おう。フォーミュラードライブ!…つーか屋根もないのかよ、ここ。」
高速で移動し、残影の後ろに回り込む。エクスに集中していたため、ウイングの接近を安易に許してしまったのだ。
残影「おおおお!」
教鞭を斜めに振るう。風の刃が、エクスに向かって突き進む。何とか剣で受けとめるも、その衝撃で剣が砕けてしまう。
エクス「…っ!?壊れた!」
剣の柄だけがエクスの手元に残る。刃を形成していた部分は、水となり、地面に落ちていった。
リオンS「今だ!」
残影は今の一撃で、少し疲弊していた。
装甲を覆う表面まで力が回らなかった。
チョークスリーパーでもするかのように飛びつくウイング。
残影「は…はなせ!」
暴れるが、どうにも離れない。
ウイング「うるさい!返せ!」
残影の額のバイザーに手をかける。そのまま力ずくで奪い取る。
そして、身体を形成するものを失った残影は元の姿に戻る。
ウイングが、額にバイザーを装備する。
…心の中に誰かが話しかけてくる。
「何取られてるのよ!あんたアホちゃう?」
何故か関西弁で喋る女メダ。
「相変わらずきびしいな。」
腕を組むウイング。
「…ま、ええっしょ。取り返してくれたしな。ほな、いくで。」
手を組み、祈るようなポーズ。
「おうさ!」
光がウイングを包む。
体の各所が変化していくのが分かる。
昔から、そうであったかのように。
――――進化。
カブトムシのイメージを残しつつ、残影の姿と重なるところが見られる。
鎧のような胸部、KWGのような脚部。そして、翼をあしらった角。
風のエレメンタル。
エクス「風…」
ウイング「たしか風は初期装備がないんだな。うっし…」
地面に落ちていた教鞭を拾う。そして、一旦大きく跳躍し距離をとる。
残影「しまった!」
後悔先立たず。ウイングにエレメンタルを取られた際落としてしまったらしい。
ウイング「初登場だからな。ちょっと派手にやってみますか!」
教鞭を縦に両手で持ち、念じる。
ウイング「上級技みせたるわ!風輪!」
先ほどのような風の刃ではなくCDのような形の風の輪が形成され、ウイングの周りを浮遊している。
ウイング「ごぉ!」
教鞭で相手を指す。
弧を描くようにして飛ぶ風の円盤。
片方はかわすが、もう片方が右肩を切り裂く。
残影「…っち!」
負傷した右肩を覆うが、おさえきれずオイルが垂れてくる。
止めの一撃のため、大きく教鞭を振りかぶりながら残影に向かって走るウイング。
8m…6m…4m…2m…1m
すぐに目の前までつくウイング。
振りかぶった教鞭を振り下ろす!
残影の作ったものより大きい風の刃で残影を切り裂く。
残影「自分の技でやられるとはこれいかに…。」
ガシャン、という音を立てて残影が地に落ちる。
機能停止。
「洗濯中、リーダー機機能停止!勝者、花園3中!」
歓声のかわりに、雨の降る音の方が大きく聞こえた。
戻ってくるウイングに飛びつくエクス。
エクス「これで甲子園だな!」
ウイング「おう。そうだったな。」
光がウイングを包む。もとのバンガードビートルの姿に戻る。教鞭は持ったままだが。
ウイング「甲子園っつーともっと強いのが出てくるわけだな。」
エクス「そうだな。ま、なるようになるだろ。っと、ハヤトが呼んでる。いこうぜ。」
ウイング「おうさ。」
ハヤト達はもうすでに屋根のあるところに退避したらしい。タオルを持って手を振っている。
雨の中をそこに向かって走る白と蒼。白の方が先につき、タオルに巻かれる。
ハヤト「よくやった。錆びないうちにちゃんと拭けよ。」
エクス「NEPFって錆びるのか?」
ハヤトがエクスの角のあたりについた水をふき取る。
エクス「まさかエレメンタルが出てくるとは思わなかったよ。」
ハヤトからタオルを奪い、自分で腕のあたりについた水をタオルでふき取る。
ウイング「ま、俺が奪い返したけどな。」
ようやく屋根の下につく。
頭を振り、水を弾き飛ばすウイング。
リオンS「ちゃんと拭けよ。」
ミナから受け取ったタオルをウイングに渡す。
適当に水を拭き取ったあと、額につけたエレメンタルを外す。
ウイング「しっかしまぁ懐かしいもの出て来たな。」
懐かしそうに、その中心の紅い石を見る。
リオンS「そういや返せとか言ってたなお前。」
ウイング「ああ、そのことか。そのうち話すよ。」
リオンS「おう。」
ハヤト「よし、それじゃあ撤収だ。大事な話があるから部室に行くぞ。」
流「えー、ここで解散じゃないのかよ。」
流が不満そうに呟いたが誰も反応しなかった。
花園三中校舎はずれメダロット部部室。
ハヤト以外ぼろい机と椅子に座り、ハヤトの方を見る。外は相変わらず雨が降っている。
ハヤト「全員いるな。…それじゃあ話を始める。まず、今日の戦いで俺らの甲子園へのキップを手にしたわけだが…問題があるんだ。」
龍祐「なんですか?」
ハヤト「今の俺らの部員数は四人。んでミナをいれても五人。…甲子園の出上最低人数は…六人なんだ。」
部員一同を申し訳なさそうなめで見まわす。
リオンS「つまり…」
流「つまり…」
龍祐「つまるところ…」
リ&流&龍「部員が足りないってこと?!」
三人の声が見事ハモる。
ハヤト「そういう事だ…どうする。」
はぁとため息をつき、頭を足れる。
「ふふふ…俺の出番だな!」
突然天井からの声。見上げる一同。
そこにいるのは、両手両足を広げ無理やり天井に張りついてる前髪だけ茶髪のナイスガイ!
ハヤト「…何のようだ。ショウ。」
ショウ「俺だと見破るとは流石だな。鍬利ハヤト。」
くるりと一回転し、机の上に着地。
ハヤト「うるさい、とっとと帰れ。GO HOME!」
飽きれたような顔をし、出口を指差す。
ショウ「な…なんて奴!英語も織り交ぜて帰らせようとするとは流石我がライバル。」
龍祐「それで、何の用ですか?」
明らかに鬱陶しそうにするハヤトと何か訳のわからないことをぼやいてるショウの会話をこれ以上聞いても無駄と判断し、はなしを進めようとする。
ショウ「そうだ、貴様らにいう事があったんだ。」
だったら早く言えよとハヤトが心の中でぼやいた。
ショウ「明日から俺はこの学校に通う事になったから。そこんとこよろしく。」
スマイル。白い歯がきらりと光る。
ハヤト「…は?」
なんだよこんな展開かよと心の中で呟く。
ショウ「ま、これで部員数は足りるな。よし、オールオッケー!」
ハヤト「…ふざけるなぁ――!責任者出せ!っていうかてめぇこんな時期に引っ越してくるな!」
暴れだすハヤトをいつの間にサングラスをかけ黒服に身を包んだリオンSと流が部室の外に両腕を掴み、部室の外に連れていく。…グレイ捕獲。
ショウ「というわけでよろしく。龍祐のお嬢ちゃん。」
机から下り部室に残った龍祐に話しかける。
龍祐「僕は男ですよ…」
ショウ「冗談どよ。」
どこの地方弁だよ。
龍祐「しかし、なんで今の時期に引っ越しなんですか?」
率直な疑問。
ショウ「ん、ああ。うちの親の気まぐれ。金持ちは便利なんですよォ。」
龍祐「へぇ、便利なんですね。お金持ちって。」
ショウ「でも、1,2年はこっちにいるようになるだろうからな。」
何気に窓を見る。雨が上がってきてるようである。
龍祐「…受験勉強大丈夫ですか?」
あ、と言い動きが止まるショウ。
ショウ「…大丈夫だ。多分。」
ふらふらと部室を出てどこかに歩いていってしまうショウ。
部室に一人残された龍祐。
龍祐「みんないなくなっちゃった。…それでは、帰りますか。」
床に置いといたバックを手に取り、肩にかける。ぼろい木作りの部室からはポタポタと雨の染み込み、落ちる音がする。俗に言う雨漏り。
龍祐「甲子園か…お父さんたち、見てくれるかなぁ。」
かすかな希望を胸に、拳を天に突き出す!
龍祐「目指すは優勝!ただ一つ!」
少年の目には諦める事などないように見えた。
リオンS「これでこーしえんに行ける!」
ウイング「ま、俺のおかげかな。」
リオンS「…そう言う事にしとこう。」
ウイング「さて、来週の白きクワガタの伝説は「もう一つの決着」。」
リオンS「じつは白クワの主役俺なんだ。」
ウイング「ウソつけや!」