秋という季節独特の涼しい風が頬を撫でる。
再戦の時が来た。
そう告げるように。
ハヤト「よう、色男。」
久々に会ったライバルに軽く挨拶を交わす。皮肉を交えて。
ショウ「よう、鶏頭。」
こちらも負けてはいられないようだ。
ミナ「こんにちは、ショウさん。」
ショウ「こんにちは、ハニー。僕と君の間には年の差なんて関係無いぜ。ショウって呼んでくれていいんだぜベイビー。」
ミナの手を取り、一人でドリームムード全開。
一方ミナは苦笑いを浮かべている。
ハヤト「…エクス、殺れ。命令だ。」
エクス「無茶言うな。」
メダロット三原則があるからね。
ショウの手を振り払い、ハヤトの前に立つ。
ミナ「ハヤトちゃん、頑張ってね。」
ハヤト「できれば…”ちゃん”づけはやめて欲しいんだが…」
かなり困った様子。後ろの方でショウが何か言っているがここは無視。
ミナ「そお?じゃあ、鍬利くん。で、どう?」
ハヤト「悪くは無いけど…」
なにか言いたそうな顔をしている。
ミナ「じゃあ私、応援席行ってるから。今日も頑張ってね鍬利くん。私のボストンバックの為に。」
ボソリと何か聞こたがとりあえずうまく聞き取れなかったのでほっておくことにした。
応援席にいくミナの後ろ姿を見送りつつ、この先のことを考える。
なんとなく視界にはいってきた時計を見ると11時を回っている。もうじき試合だ。
ハヤト「そんな馬鹿ほっといていくぞ、エクス。」
ショウ「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!」
ハヤトの言葉に機敏に反応し、暴れ始めた。
イエーガー「マスター、落ち着いて!」
慌てて押さえつける。可愛そうな役回りだなぁ。
エクス「んじゃ、行こうか。」
ハヤト「ん。」
応援席…といっても余り人はいない。
ショートヘアによくにた髪型をした青年、神龍 リオン。十数年前は有名だったが今は見る影もない普通の青年。
リオン「リュー、水筒とってくれ。」
隣に座っている純白のKWGに頼む。
リュー「ずいぶんとまぁ遠足気分だな。」
席の下においてある緑色の水筒を渡しながら呟く。
レイス「ところで、昨日の赤いKBTは直ったの?」
リューの向こうにいるKBTに似た黒いメダロット、レイスがたずねる。
リオン「ああ、ファイアビートル?一応は直したけど…」
レイス「けど?」
リオン「渡してない。」
ずっこける一同。
レイス「それじゃ意味ないでしょ、バカァ!」
リオンに向かって銃口を向ける。
瑠璃「こいつの馬鹿は元々よ。」
箱の中の不恰好なおにぎりを手に取る。
リオン「お前ら…あ、始まるみたいだ。」
審判「これより、花園中対花園三中の試合をはじめます。選手、メダロットは所定の位置についてください。」
審判がバイザーをおろす。ロボトル衛星、”テラカド”からO,Kとの指示が入る。
両選手が所定の位置についたのを確認すると、右腕を上に上げる。
花園三中は青いKBTが後衛に2体、その前にKWG。花園中は右からKLN、STG、DOG。
審判「それでは…ロボトルファイト!」
右腕をいきおいよく振り下ろす。
ハヤト「狙いはイエーガーだけだ!他はほっとけ!」
エクス『了解!』
背中のシールドを抜き、それを右腕で持ち、構える。
リオンS「ウイング、あのKLNだ!龍祐、そっち頼む!」
龍祐「はい、わかった?ライトニング。」
ライト『ああ、俺はあの犬っころだな。』
それぞれの標的にむかって駆け出す!
瑠璃「もご…どぼ、ビボン。(訳:どお、リオン。)」
ブラスト「口の中のもん食べてからしゃべりなさいよ。」
リオン「ん〜、リーダー機同士の戦いだからなぁ。負けだけじゃなくて意地もかかってるから結構良い戦い見れるんじゃない、多分。他は…楽勝だろ、あの二人なら。」
リュー「がんばれ、弟子よ!」
日本刀を振りまわりながら応援をはじめる。
レイス「日本刀はよしましょうぜ、ダンナ。」
慌てて暴れ出したリューをなだめる。
ウイング「よう。俺、ウイングってんだ。よろしく〜。」
かなり脱力した構え。両腕を下に垂らし、目も何処となくやる気がない。背中のバインダーも上のが下に向いている。
KLN「私はエバースという。君、やる気ある?」
試しにエバースがガトリングを放つ。
ウイング「あるよ〜。」
ふらふらと右に歩きそれをかわす。
エバース「…なんだか腹が立つな。」
頭部能力を発動させて一気に距離を詰め零距離射撃をしかけようとする。
あと少し、その距離まで来たとき、あたりの気の流が変わった。
ウイングの瞳が平行四辺形に近い形に変わる。
本気モード突入。
ウイング「…龍の牙にて…」
うわごとの様に呟く。
リオンS「敵を砕く!」
ウ&リS『必殺…龍牙爆砕拳!』
背中のブースターを全開にし、エバースにむかって飛ぶ。
リオンS「いっけぇぇぇぇぇ!フォーミュラードライブ!」
メダロッチからの指示、ボディが輝きスビードが比べならないほど増す。
ウイング「おおおおおおお!」
ウイングのボディが動くたびに光の粒子を放つ。両腕の拳を握り、地をすべる。
エバースの前で止まり、拳を繰り出す。
一撃目が腹部に決まる。
高速で次の一撃が決まる。
ガードが間に合わず、全ての拳を受ける。
最後にアッパー、浮かせたところで反応弾。
攻撃が止み、地面に落ちたときにはすでに、エバースは機能を停止させていた。
ライト「相変わらず、はやいこって。」
銃弾をよけ、アペンディスターを撃ち出す。
DOGはそれを間一髪でかわす。
龍祐『あの技、やってみる?』
時を見計らって、言った。
ライト「悪くはない。」
DOGの攻撃を右手で受け止める。
龍祐『えっと、…い、いくぜ。必殺…』
ライト「雷鳴閃空斬!」
高くジャンプし、肩部イオンブースターを全開にし、距離を一気に詰め寄る。
タックルにも似た感じでDOGの攻撃を肩で受ける。
DOGの目前まで来て着地、もう一度真上にジャンプ。
下を見下ろす。
なかなか良い眺めだ。DOGの射撃さえなければ。そんなことを心の中でライトニングは呟いた。
標的に向かってアペンディスターを撃つ、まっすぐに飛び、直撃。追加効果により一時身動きが取れなくなる。
龍祐『いっけぇ!』
龍祐の指示が、メダロッチを通して聞こえる。
ライト「おおおおおおお!」
ビームソードとソードユニットでX字に斬りつける。
一瞬の静止のあと、何故か爆発し、DOGのメダルが、転々と転がる。
エクス「このぉ!」
ビームブレードを横に滑らす。それをよけ、イエーガーは反撃に転じる。
よけで空いた分の距離を踏みこみ、ハンマーを繰り出す。
シールドでそれを受け止めるエクス。
吸い込まれるようにイエーガーはさらに踏みこみ、右腕の剣を縦に、真上から振り下ろす。
それを角で器用に受け止め、シールドを押し出し、イエーガーに僅かながらもダメージを与える。
ハヤト「いいぞ、エクスカリバー!」
エクス「おうよ!」
ショウ「イエーガー”あれ”いくぞ!」
イエーガー「はい、マスター!」
エクスが思いっきり、イエーガーに向かって駆ける。
それに合せてイエーガーがエクスを飛び越える。エクスから見れば、消えた様に見えた。
ハヤト「うしろだ!」
マスターの指示が飛び、振り向こうとした。
ショウ「遅い!」
イエーガー「はぁ!」
しかし、ソードで後頭部に一撃、よろけたところにさらにハンマーでもう一撃、執拗にハンマーで頭を殴り続ける。STGのハンマーは威力がKWGのハンマーに比べて低い。しかし、僅かながらもダメージは増えていく。
視界が霞み、頭がぼやけてくる。エクスがそう思ったのもつかの間、膝の力が抜けた、倒れる。
…しかし肩膝を地に付き、なんとか持ちこたえる。
ハヤト「エクス、しっかりしろ!」
エクス「わかってるよ…」
追撃をシールドでふせぎ、反撃に出ようとするが視界が霞み、Bブレードをうまく攻撃を当てられず、かわされてしまう。
先ほどの攻撃は、エクスカリバーの内部構造に確実ダメージを与えていた。
まあ、それが目的の攻撃なのだが。
エクス「くっそ、頭いてぇ。」
ふらつく足でなんとか立ち上がる。
ショウ「やっちまえ!」
イエーガー「はい!」
ソードが迫る、防がなくては。そう考えるも体が動かない。
ハヤトがメダロッチを見る。
一撃なら耐えられるほどの頭部パーツの損傷率。しかし、それ以上絶えられる保証はない。
ハヤト「エクス!」
運が良いのか悪いのか、ソードが肩のアーマーに引っかかり吹き飛ばされ、二転三転しながら右に転がってく。
エクス「…あれ?音が聞こえない…」
視界こそ元に戻ったが、周りの音、雑音、歓声、指示。それらがすべて、自分の世界から、消えた。
立ち上がり様にイエーガーに向かってBブレードを振るう。それもかわされたが。
メダフォースを貯めるも時間がない、指示を仰ごうにも聞こえない、これ以上頭部にダメージを受けたら負ける、それはまだ機動時間の浅いエクスカリバーにとって絶望にも取れた。
………………しかし、諦めるわけにはいかなかった。ハヤトが自分を信頼しているから、自分がハヤトを信頼しているから。
少しだけ希望の光が差し込んで来た気がした。
誰かの声が聞こえたような気がした。幻聴か、俺もずいぶん駄目になったものだな。そう考えたがその声はハッキリとしたものだった。
「右から大きいのが来る!」
その声の通り右から大振りでソードが来るのが見えた。それが、今はロボトルの最中だという事をエクスカリバーに思い出させた。
「前に踏み込み姿勢を思いっきり低くしてそれをかわせ、隙が見つけられる。」
引くどころか、大きく踏みこみ、大きく前傾姿勢でぎりぎりかわす。幻聴の言う事に賭けて見たのだ。
ハヤト「エクスカリバー!?」
そのかわし方を見たことがあった。ずいぶん、前に。
ショウ「なにぃ!?」
予想外の展開に、指示が遅れた。そして…一瞬の隙が生まれる。
エクス「おおおおおおおおおお!」
ビームブレードをいきおいに任せ、コマのように回転しながら思いっきり振り上げる。
――――――ズバァァァァァ!!
ビームがイエーガーの脚部から頭部の先まで、完全にとはいかないが真っ二つに裂く。
カメラアイから光が消え、イエーガーはどさりと仰向けに倒れる。
エクスも、また視界が霞み、膝を地に付く。倒れる事こそしないものの。
審判「花園中、リーダー機、機能停止!勝者、花園三中!」
審判が声高く、勝者の名を宣言した。
ハヤト「エクス!」
相棒に向かって走り、肩を貸す。
エクス「…あ、ああ、ハヤトか。メダロッチに入れてくれよ。これじゃ声が聞こえない。」
こくこくと首を縦に振ると、エクスの背中からメダルを抜き取る。
相変わらずのカブトメダルの格好をしたクワガタメダル。中心の緑色の核が誇らしげに光っているように見えた。
エクスカリバーのメダルをメダロッチに入れる。
エクス『あー、やっと聞こえるようになった。』
ハヤト「よくやった、エクス!」
自分の指示無しで、僅か数ヶ月しか起動してない状態で。
エクス『…ああ、音が聞こえなくなったら、幻聴が聞こえてな。それで勝てたんだ。』
ハヤト「幻聴?」
なんだそりゃ、と言った感じの顔をしている。
エクス『ん、なんだか右から来るー、とか思いっきり低くしてかわせ―、だの聞こえてそのとうりにやったら勝てた。』
冗談のようにも聞こえたが今はそんなことを言うタイミングではないという事をわかっていたから信用することにした。
ハヤト「…まさかな。」
一瞬だが遠く見るような目をし、空を見上げた。太陽の光が強く、目を細める。
エクス『ん?』
ハヤト「いや、なんでもない。」
「おい。」
後ろからの声。もちろん、彼の。
ハヤト「なんだよ。」
かなり不満そうな顔のハヤト。
ショウ「俺の負けだ。あの技が効かなかった奴ははじめてだ。」
エクス『いや、十分効いてた。』
完全無視なようで、話は先に進む。
ショウ「とにかく、俺は負けたからミナちゃんへの手出しは止めよう。」
ハヤト「ホントかよ、怪しいよなぁ。」
ショウ「ホントだ。まあ、がんばんなさいよ。」
ひらひらと手を振り、仲間の元へ歩いていく。その背中からは寂しさというものが感じられなかった。
龍祐「ぶちょ〜。」
龍祐の間の抜けた、後ろからの声。
ハヤト「ん、なんだ?」
そちらを振り向く。龍祐がこっちこいや〜。みたいなジェスチャーをしている。
龍祐「早いとこいきましょう。次のチームが待ってますし。」
ハヤト「ようっし、撤収だ!」
花3全『おうさ!』
部室に戻り、エクスの整備をはじめた頃にはもう、昼の二時を回っていた。流はもう帰ってしまったようだがこういう場合いは大抵彼が新たな災いを持ってくるのでいないほうがいいのかもしれない。
ハヤト「野郎、負けるんだったらさっさと負けろよ。こんなんにしやがって。」
後頭部のネジを外し、ティンペットの頭部を空けた。
整備の素人でももう駄目だと思うほど中身はボロボロになっていた。
焦点レンズらしきものが外れかかり、コードがそこらへん飛び出ている。
リオンS「なぁ、だったら新しいの買ったらどうだ?」
誰もがそう思うはず。しかし、答えは違った。
ハヤト「それはできない。これじゃなきゃ駄目だから。」
このティンペットは”エクスカリバー”のものだから。やっぱりこういうのは女々しいっていうのか。でも”あいつ”を倒すまで、やっぱり捨てたくはない。
龍祐「うち来ます?一応工具とか揃ってますし、詳しい人いますから。」
一路、神龍家へ。
ハ&リ&リ『ただいまー。』
リオン「おかえりー……なあ、リュー。うちって三人中坊いたっけ?」
居間から顔だけ出して向かえたが、硬直した。因みに玄関から居間までは真っ直ぐの道である。
リュー「とうとうボケたか?一人は鍬利とか言うのだろ。」
読んでいた新聞から目を離さずに、そう言った。アンテナの効果だろうか。
ハヤトはそぞかし珍しそうな目で居間を見まわし、リオンに目的を告げる。
ハヤト「…単刀直入でなんだがこのティンペットを修理してくれないか?」
背負っていたティンペットを下ろす。事情を飲み込んだのか剥き出しになった頭部(人間で言うと脳みそがそのまま見えてるようなものだが)を覗き、龍祐に工具を持ってくるよう伝えた。
龍祐が持ってきた工具を受け取るとピンセットですばやく中のものを取り出していく。
リオン「これくらいならなんとかなりそうだな。」
取り出したものをピンセットで入れ、ドライバーでネジを締めなおす。中に指を入れ、二、三度動かしまた指を抜きペンチを中にいれる。
端から見てるハヤトの目は真剣そのもの。
最後に蓋をし、ネジを締めて元通り。
リオン「まぁ、こんなもんかな。」
パンパンと手をはたく。
ハヤト「ありがとう。」
ティンペットをメダロッチで操作し、自宅に向かって転送する。
リオン「明後日決勝か。見たところあんま、つよそうじゃねぇな。」
リモコンのスイッチを入れ、テレビをつける。ちょうどアニメがやっているようだ。
ハヤト「うちか?」
テレビを見る、リオンの顔を見た。
リオン「いや、相手だ。」
今度はベランダに向かって目を向ける。ちょうど、カラスが飛んでいった。そのカラスを見るリオンの目には過去を懐かしむ様子さえ感じられた。
リオン「レイブン…」
ハヤト「ん?」
リオン「いや、なんでもない。まぁ、楽勝だろ。」
ハヤト「そう思いたいところだ。それじゃ、俺は帰る。」
よっ、とすばやく立ち上がり、回れ右。
リオン「整備だったら俺に任せろ。そんじゃ。」
ハヤトの後ろ姿を見ずに言った。
ハヤト「ん。」
玄関に行き、靴を履きドアを空け、外に出る。いつのまにか夕焼け空になっていた。
赤く紅く染まった夕日が地平線の向こうに消えていこうとしていた。その光が頬に当たり、心地よい気分になった。ハヤトにはそれが明後日の戦いを太陽が楽しみにしているかのように見えた。
ハヤト「明後日はとうとう決勝戦!」
エクス「体調万全!いくぜ!」
ハヤト「いくぜ!デートだ!」
エクス「はぁ?」
エ&ハ『次回、白きクワガタの伝説「お出かけ。」またらいしゅ!』
エクス「デートってなんだよ、おい!」