白きクワガタの伝説 メモリー10 氷のクワガタ、炎のカブト


夜が明ける、太陽が家の屋根の間から顔を出す。それを自分の部屋から見つめる早起きな男。

――――海 流

流「あの時から俺は探していた。自問自答をくり返しながら…。その答えを今日、見せてやるぜ!」

静寂を彼の声が引き裂く。それゆえに…

妹「お兄ちゃん、うるさい!」

怒られる。

流「なかなかカッコよくきまんねぇな。」

ファイア『うるさいっつーの、寝れないじゃねえか!お前の寝不足で指示が出なかったら俺は怒るぞ。』

メダロッチの中から。

流「わーったよ。んじゃ、もう一眠りするか。」

布団の中にもぐりこみ、目を閉じる。

様々な思いがよぎって結局眠れなかった。

 

 

 

花園学園私有地ロボトル会場。

私有地とはいっても金持ちの作ったところ。設備は完璧だ。

実況者「さぁ、やってきました!本日最大の注目カード、花園3中VS朝顔中!クワガタ対決、非常に楽しみですねぇ。」

解説者「え〜と、今入った情報によりますと鍬利君は出ないようですね。代わりに入った流君の活躍に期待したいところですね。」

実況者「さぁ、まもなく試合開始です!」

 

反対側に立つ少年を見る。にらみつけるような、冷たい瞳でこちらを見ている。

流「試合前に言っておく。俺は…負けない!」

数分前のことを思い出しながら、威嚇と、自らを奮い立たせるために叫ぶ!

 

ミーティングルーム

ハヤト「今日は3,4回戦をやるみたいだ。もちろん負ける気はないが、3回戦の相手は朝顔中だ。ここのリーダー機はずいぶん装甲が高いみたいだ。そんで、二号機がKWG−18。」

ちらっと流の方を見る。すぐにその意味が理解できた。

ハヤト「そんで3号機がDOGみたいだ。形式はわかんないな。かなり古い機体みたいだ。」

リオンS「んで、メンバーは?」

ゴーグルを外し、右手の人差し指でくるくる回しながら聞く。

ハヤト「俺とお前と龍す…」

流「ちょっとまったぁ!」

突然、立ちあがる。

流「俺を出させてくれ!今日だけは、この試合だけは出させてくれ!」

真剣な瞳で、全力の訴えを投げかける。

ハヤト「…わかった。今回は俺が下がろう。リーダーはウイングで。」

流「ありがとう!」

ハヤト「ただし…負けるなよ。」

諦めに似たような笑みを浮かべ、ハヤトは言った。

流「おう!絶対勝つ!」

ハヤト「よし、じゃあ行って来い!」

光がさし込んで来る、フィールドへの道を駆け抜けて行く。

 

レフェリー「…ロボトルファイト!」

流「ファイア!」

ファイア「おおお!」

DOGの横を駆けぬけ、真っ先にライバルへ、挨拶代わりのFリボルバーを放つ。

リオンS「そいつは任せた!ウイング、DOGだ!」

ウイング「うい〜っす!」

背部のクロスバインダーを全開にし、DOGの懐に飛びこんだ。

 

フリーズ「来たか…」

静かに、右腕の刃を構える。

ファイア「うっせぇ!くらいやがれ!」

立ち止まり、Fマシンガンを連射!

フリーズ「少しは上達したか。しかし…その程度か!」

あわてることなく、左に飛び回避。さらに前ダッシュ。

流「落ち着くんだ!心を静めて、全てを見ろ!」

冷静にフリーズの動きを見、指示を出す。

ファイア「無茶言うな!」

流「火炎弾!そのあとFリボルバーを打ちながら突っ込め!」

ファイア「おう!久しぶりに来たな、無茶な作戦。」

意味深な呟きをし、火炎弾を放つ。

目標物に向かって放物線を描き、飛ぶ。

それを当然のように回避するフリーズ。

目標物を失った火炎弾は地面にぶつかり、砂埃を起こす。

ファイアリボルバーをがむしゃらに連射しながら、砂埃の中に入る。

流「ストップ!もう一発火炎弾!」

紅い瞳がにぶく輝く、その方向に向かってもう一発放つ。

流「走れ!格闘戦だ!」

ファイア「んな無茶な!」

一瞬だけ、警戒を逸らした。

フリーズ「はぁ!」

その隙に至近距離まで持ち込まれハンマーを一撃受ける。さらに”停止”の効果により脚部が動かなくなる。

流「かなりまずいな…」

汗が一滴、流れたような気がした。

メダロッチから被害状況が淡々と報告されていく。

このままいくとまずい…そんな考えにさせられる状況だ。

流「そうだ!」

左腕の機能が停止したと同時に閃きがよぎる。

流「ファイア、足に継続をぶつけろ!」

ファイア「なんだってぇ!?」

流石に驚きを隠せない様子。

流「早く!いいかげんやばくなってきた!」

そうこうしてる間にもだんだんダメージメーターに赤の面積が増えてくる。

ファイア「どうにでもなれ!」

両足に一発づつFリボルバーを打ちこむ。

 

源「所詮この程度か。フリーズ。」

フリーズ「はい。」

ハンマーを振りかぶる。止めの一撃のために。

ファイア「まだだぁ!!」

振り返り、渾身の拳を、フリーズの右顎にぶつける。

当然のごとく、変な形に銃口がまがってしまう。

そして…叫ぶ!

流「俺の、俺達の心の炎がある限り!お前の氷などで止まりはしない!それが…俺の答えだ!

ファイア「おおおおお!」

よろけて、動きが止まったところに頭部の角を突き出し、投げ飛ばす!

源「な!?」

かなり驚いた様子。

流「これがカブト流の戦い方だ!」

ファイア「これが最後だ、火炎弾!」

KBT型のシンボルである角から、最後の火炎弾を撃ち出す。

右に回ったのは刃を砕き、左に回ったのはハンマーに直撃し、砕く。

姿勢の悪いまま地面にぶつかり、立ちあがったもののかなりふらついている。

隙を見つけ、接近しアッパーを繰り出すファイア。

お返しとばかりに蹴りを与えるフリーズ。

いつの間にかうるさかった観客席もその戦いに見入って静まり返っていた。

流「いっけぇーーーーーー!」

ファイアの膝蹴りがフリーズの腹部に決まる。

源「フリーズ!」

フリーズの拳が右肩にへこみを入れる。

ファ&フ『おおおおおおおおおおおおお!』

少し、距離が空いた。ファイアは射撃武器は使えない。フリーズは両腕の格闘武器が砕かれている。

残ったのは”拳”。

互いに駆けだし、炎の右を、氷の左をくりだす!

バキィという鈍い音がし、ファイアの拳が、フリーズの拳が、互いの頬に決まる。

――――――クロスカウンター。

場がしぃんと静まり帰る。

流「……ファイア?」

源「……フリーズ?」

両方の頬から手が外れ、倒れる。

フリーズのメダルが射出され、地面に落ちる。2転3転し、動きが止まる。

一方ファイアはなんのリアクションもなく倒れたまんまである。

流「…………ファ…イア?」

見るとファイアの背中から煙が出ている。

流「ちょちょって、何、何!?」

ファイア「背中…あちいぁーーー!」

メダルカバーを全開にし、煙を外に放出する。

海老反り状態になり、また倒れる。

ファイア「あちぃ…」

そんな事を言い残し、メダルを射出する。

成虫に進化した新たな”力”を…

 

 

リオンS「終わったみたいだな。よし、止め。」

ウイング「あいよ!」

一歩うしろに飛び、反応弾を発射。

リーダー機の頭部に両方命中。機能停止。

レフェリー「朝顔中、リーダー機機能停止!勝者、花園3中!」

観客席から歓声が上がる。拍手をするものも少なくは無い。

 

流「見たか。これが今の俺だ。」

いつのまにか源の前まで来てる流。

源「ああ、見た。少しはまともになったな。」

流「俺としてはかなりといって欲しかったな。」

源「それが言って欲しかったら…優勝するんだな。」

流「へっ、やってやろうじゃんよ。優勝を!」

源「…………それでこそ、俺のライバル”海 流”だ。」

えっちらおっちらフリーズのメダルを回収しに歩いていく。

流「それでこそ俺のライバル。か…」

その後ろ姿にはすこし、喜びが混じっているように見えた…


次回予告

ウイング「さあって、四回戦だ!これに勝てば準決勝だな?」

リオンS「おう!…あんたら誰?俺が裏切り者?」

ウイング「ロボトルなら問題ないけど…」

リオンS「次回、白きクワガタの伝説『裏切り者の汚名』。」

ウイング「なんのこっちゃ。」


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