何が何だか少しずつ分かって来た。
しかし、今何をしろというのがはっきりしないため、とりあえずこの世界で普通の生活を送ることとなる。



Wing’s Medarot another would

Another three  〜夢を見るもの〜


「お兄ちゃん!はやく、遅れちゃうよ!」
妹が部屋の外から急かす。慌てて制服に身を包み、部屋を出る。
リオン「すまん、行こう!」
慌てて階段を降り、靴を履き飛び出していく
『いってきま〜す!』

時というものは早いものでもう新学期の始まりである。
最も授業などほとんどリオンはまともに受けようとは思っていないが。

―始業式が終わり、ホームルーム―
男のいくらか歳を食った教師が教壇に立っている。
先生「今日から新学期ですが、気を引き締めて頑張ってください。今日はこれで終わりです。」
お決まりのきり―つ、れい。という声で、礼をし、それぞれ思い思いの行動を取る。
「なぁ、お前、結花(ゆか)ちゃんの兄貴だろ?」
後ろからの声、呆れ半分にリオンが振り返る。
リオン「そうだが、なにか?」
後ろに立ってのはきわめて平凡な男。
「で、飛翔に勝ったんだろ?」
リオン「飛翔…?ああ、この間の赤髪の奴か。」
リオンの脳裏にこの間の戦いが蘇る。最後の、泡に反射させて光学式反応弾を当てたところを特に強く思い出す。
「飛翔っていったらこの辺りじゃ結構なの知れた奴だったからお前って凄いんじゃないのか?」
何を言ってるんだか、といいたげな呆れた表情になる。
リオン「当たり前だ。俺は最強の男だぜ?」
ビシィ、と親指で自分を指差す。余裕に満ちた笑み。
「そいつは凄いな。ところで、お御籤町に謎のメダロッター『S』って言うのが出るらしいんだけど、お前戦ってみたら?」
リオン「なんだそれ、聞いたこと無いな。強いのか?」
「よくはわからないけど、そういうのがいるらしいってよ。」
ごそごそとバックの中から雑誌を取り出す。週刊誌「TIME」。
リオン「いいや、別に。」
彼が目的のページを開く前に、リオンが立ち上がりバックを肩にかけでていってしまう。
「ちょ、人の話しは聞けよ!神龍!」
そんなのを無視して、鼻歌交じりに教室を飛び出していく。

「…神龍 リオン…」
自分を久々に負かした男の名。
電信柱の影からその姿を見ている、赤髪の少年。名を飛翔 紅。
その強さが何たるかを調査しているところ。

リオン「ただいまー」
学校から近い位置に家があるためすぐにたどり着く。
返事が返ってこないとこから誰もいないようだ。
何か食べようと居間に行くと、机の上に書き置きがあることに気がついた。

「今日はお御籤町ヘ行きますので、準備しておいて下さい。」

リオン「…マジッスか?」
彼の呟きは誰にも聞かれる事なく、虚空へと消えていった。





―リニアレール内―
ぼんやりと窓の外を眺めている。
リオン「(謎のメダロッター「S」か…興味がない事はないけどな。)」
窓の外の景色から目を離し、腕のメダロッチを見る。
映し出されているのはリオンオリジナルカスタムの「クロトジル改」のデータ。
両腕に泡…バブルバレットと呼んでいる弾丸が出る。因みに材料は砂糖水。中がどうなってるか不明。
ウイング『なーなー、お御籤町って強いメダロッターっているのか?』
ちょうど見ていたメダロッチからの声。
リオン「知らない。謎のメダロッター「S」って言うのがいるらしいけどな。」
それだけ言うと、また窓の外に視線を移す。
外では景色が急激に変っている。


母「それじゃあ私達は買い物に行ってくるから…そうね、大体5時ぐらいにここの改札口の前に戻ってきて。」
リオン「了解。」
それだけ言い残して、人込みの中に消えていく、母と呼んでいる存在。
本来なら、いない自分。
今までと違う環境。
似ているようで、違う街中。
全てが新鮮であり、また作り物の様にも思えた。
ただ―――――
相棒がいる事だけは、この世界が偽物ではないという証拠であった。
そうして彼も、人込みの中に消えていく。


視界の端に、何かが打ち上げられるのが見えた。
何かと思い、そっちを見る。
摩天楼の隙間から、天に向かって登っていた。
天からの光を受けて輝くその身体は緑。
正確には打ち上げられたのではなく―――――跳んでいた。
その二本の足で。
弐脚ではありえないほどのジャンプ力。
しかしリオンの脳裏にはそれに該当する情報があった。

”TON型。バッタを模り、兄弟機TET型と共に関東地方限定のメダロット。
そのジャンプ力は他の弐脚とは比べ物にならないほど高く、扱いづらいとされている。
デザインも悪いといわれていて、在庫処分セールでよく見かける”

地上にいるであろう敵に向かって、ビームを…エネルギーを三分割にして、撃ち込む。
そしてまた重力に引かれ、再び摩天楼の隙間へと消えていく。
一瞬の出来事であった。
知らずのうちに、リオンの足はそっちの方に動いていた。

しかし、現場であったであろうその場には何もなく…正確には機能停止し、捨てられたメダロットであったもの以外は何も残っていなかった。
リオン「さっきのは…TON型以外はあんなジャンプ力は出せない…」
そう言って、足元に転がっているメダロット…ベルゼルガに視線を落とす。
頭部には焼け焦げたような跡…つまり、ビームで貫かれた跡が残っている。
リオン「…一度、お手合わせ願いたかったな。」
残念そうに呟き、その場を後にした。
風が、小さく吹き抜けて行った。


リオン「…あった。」
近くのコンビニへ向かい、あるメダロットを探していた。
TON型、アクロバッタ。
記憶に間違いがなければ、色の明るいほうがトーノバッタ。暗いほうがアクロバッタ。
デザインが悪いといわれるが、彼は特にはそう思わなかった。
一度箱を置き、財布の中身を確認する。
そこで、彼の動きが一度止まった。
目まぐるしく思考が働き、その理由を導き出す。
――――この間、クロトジル買ったときだ…
財布の中身がほとんどない。お札が1枚だけ入っている。2000円札。
とても買えるような所持金ではないため、がっくりと肩を落とし、アクロバッタを元在った場所に戻す。
そのまま、とぼとぼとコンビニを後にした


そのまま集合時間となってしまったため、諦めて帰ることに。
結局何も進展なかったなぁとぼやいてみたが、案外そんなものかもしれない。
帰りの電車の中で、彼はこう言った。
リオン「…ウイング、明日から資金稼ぎするぞ…」
買えなかったのがよっぽど悔しかったらしい。
それでも、日が暮れていく。


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