リウ「ふう…彼らがここまで成長するとは正直言って驚いたよ。」
パソコンで何やらデータらしきものを打ち込んでいる。
テムジン「そぉかぁ?お前と俺のときとは対してかわんないような気がすんぞ。」
リウ「そんなものか。なあ、テムジン。」
テムジン「なんだ?」
リウ「彼らなら…このシステムを使いこなせると思うか?」
テムジン「ウイング…システムだったか?」
リウ「ああ。」
テムジン「使えると思う。あいつらなら、使えると思うぜ。」
根拠はないが、直感といったものか。
そうかといい、口元に笑みを浮かべながらまた止まっていた手を動かす。
翼のメダロット 第九話 翼の鼓動
―リオンの家―
ウイング「あ―痒いぃぃ!」
バタバタと床をのた打ち回る。休日なのに騒がしい。
リオン「痒いったって知るか!」
キーボードを打つ手を止めて、リューに拘束されたウイングの方を見る。
リオン「そろそろ覚醒の時だって言うけど…覚醒ってなんだ?リュー。」
痒いと叫びつづけるウイングを押さえながら答える。
リュー「進化みたいなものさ。それをすればメダフォースが撃てるようになる。」
リオン「へぇ…メダフォースってなんだ?」
リュー「俺達の本体、メダルの精神エネルギーみたいなものさ。使い様によっては攻撃に使ったり、特殊行動を引き起こしたり、色々あるのさ。…って、うるさいな!メダル外すぞ!」
ウイング「いっそのことそうしてくれ〜。痒くてしょうがない。」
ウイングが背中のメダルカバーを開ける。その中で輝く、銀色の翼の描かれたメダルを取り出す。
リューの手の中でドクン、ウイングメダルが、脈を打ったような気がした。
リオン「これで静かになったな…さて、続きをやんないと。」
再びパソコンに向きなおす。
どうやらオンラインゲームをやっているようだ。
―リオンの家、屋根の上―
リュー「もう覚醒の時期か…なんだか凄いいやな予感がする…」
先ほどウイングのメダルを握ったときの感覚を思い出す。
ドクン、という脈を打つ音。
メダルが脈を打つはずがない。
しかし、現に打ったような感覚がした。
握っていた右手を空にかざす。
太陽が、少し眩しい。
―リオンの部屋―
リオン「ふぅ…今日はここまでにするか。」
オンラインゲームはもう終わったようである。
リオン「…俺も大分、ロボトル強くなったかな…?でも、まだまだ強い奴がいるはずだからな。」
ぼんやりと天井を見る。
天井に張られた、自分の信念。
習字で書いた、もう6年以上も前のもの。
リオン「自分を信じた奴が、一番強い…。」
静かに、強い意思でその字を読み上げた。
それからはしばらく面白い事も起きなく、静かに過ぎていった。
夕食後、ウイングがしきりに外に出してくれと言い出した。
メダロッチにつけたら叫び出したのである。
リオン「いいけど…」
メダロッチを腕に付け直し、右腕を前に突き出す。
リューが読んでいた本を置き、リオンの方を見る。
リオン「KBT−03 サイカチス改 ブレードウイング、転送!」
蒼いカブトムシが、リオンの部屋に姿をあらわす。
緑の瞳が出ないまま、窓の外の月を見る。
風が、吹いた。
まだ、梅雨の冷たい風が。
そして…跳んだ。窓の外へ。
普通のスピードではない。
一瞬の出来事に戸惑うが、ロボトルで鍛えた、状況理解力。
すぐさまそのあとを追おうとする。
リオン「えぇ!!なんだかわかんないけど、リュ−、追うぞ!」
リュー「分かってる!」
そばに立っていたリューをレクリスモードに変形させ、その背中に乗る。そして、同じように窓の外へ跳ぶ。
走行風を受け、男としては長く、黒いその髪がなびく。
リオン「いよいよ覚醒ってか?リュー、索敵でウイングの動きをしっかり捕らえとけ。」
リューの角を、一層強く握る。
リュ−「やってる。この方向だと…泉の方か。」
屋根伝いにウイングを追う。が、如何せんウイングが早くどんどん離されていく。
リオン「これ以上スピードは出ないのか!?」
リュー「無茶言うな!お前が吹っ飛ぶ!」
屋根を飛び越え、道を飛び越え、街中を騒がせながら”泉”の方へ向かっていく。
―泉―
かつて、アガタヒカルのメタビーが宇宙人と接触し、その命を取り戻した場所。
今は泉は枯れ、ほとんど当時の面影は残されていない。
ウイング「…………」
大小様々な縦に長い岩のようなものの前に降り立つ。
野良メダ「なんだ?おめぇは!」
野良メダロット達が、ウイングの周りに集まり始める。
その数は、ときが経つに連れだんだんと増えていく。
それだけ、人に捨てられた数が多いと言う事。
野良2「おい、聞いてるのか!」
いつまでも返答を返さないウイング。
ウインクを殴るか殴らないかの時に、何かがウイングの後ろに跳んでくる。
リオン「ちょっと待て!今そいつに触れるな!」
リューに跨ったまま、リオンが叫ぶ。
野良3「なんや人間!やっちまえ!」
く…とリオンが呟き、リューから降りる。
両腕のメダロッチのカバーをあける。
リュー「いい加減正気に戻れ!」
ノーマルモードに戻り、インテスビートでウイングの頭を叩く。
2,3秒後、ウイングに緑の瞳が灯る。
ウイング「え?あ…って、なんでこんなとこに!」
リオン「いいから行け!目標、目の前の敵!」
両腕のメダロッチをクロスして構える。
もう、こうなってしまったからには後には引けない。
ウイング「くらえ!リクガンフレアァ―!」
右の拳を突き出し、突っ込む。
いくらかの敵が吹っ飛んだようである。
リュー「あんま遠くに行くな!援護できなくなる!」
インテスビートをがむしゃらに振り、目の前にいた3体を吹き飛ばす。
ウイング「しっかし…数が多い!ドルフィンブロウ!」
大きく踏み込み、姿勢を低くする。
そのまま右手で反動を付け相手の腹部へ。
ブースターを全開にし、上へ飛ぶ。
そのまま見下ろす形で広域に一斉射撃。
着地したところで、再びエアーブースターを吹かし、リクガンフレアでリューの元へ向かう。
そのリューはと言うとKWG特有の速さが生かせず、装甲がかなり限界に近いところまで来ている。
リュー「く…まだだ!」
フォーバイスを目の前の敵に突き刺す。
それを抜き、インテスビートを振りまわす。
ウイング「リュー!大丈夫か!」
自分から見て前、リューから見て右側の敵にブラスターを撃ちこむ。
リュー「ああ、今のところは…!?」
リューの後ろに、影が出来た。
…………
今まで感じた事のないような痛みが背中に走る。
意識が朦朧としてくる。右側にいるウイングの姿が、ぼやけてくる。
機能停止のような感じではない…もっと、重大な事。
背後にいたメダロットが、リューの背中にナイフを突き刺していた。
皮肉にもそれはリューと同じ型、KWG−03型ドークスであった。
フォーバイスを引きぬくと同時に、緑の粉が、美しく、悲しく夜空に舞い上がる。
リオン「り…リュ――――――!」
幼いころから一緒だった友の、あっけない終わり方。
リオンの頬を、涙が伝う。
ウイング「…てめぇ…………うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ウイングの瞳が一層強く輝く。
空気の流れが変わった。
風が、止まった。
――――――覚醒。
ウイングの背中に、大きな翼が広がる。
夜空の中でも輝きを持ち、美しく透き通っている。
そのウイングの翼が、リューを包みこむ。
光が、辺りを包んだ。
リュー「(なんだ…俺は死んだんじゃ…)」
ウイング「まだ死ぬな…あいつが悲しむ。」
リュー「ウイング…」
ウイング「いくぞ、まだ終わってない。」
リューの視界に、また光が戻ってくる。
翼が、開かれた。
その翼の持ち主が高く舞い上がる。
龍が、再び立ちあがる。
リオン「リュー…ウイング…」
涙を拭き取り、メダロッチを構えなおす。
ウイング「俺の力…見せてやるぜ!」
リュー「リオン、拙者はもう大丈夫で御座る。心配かけてすまなかった。」
リューの一人称が拙者に変わっていたことに違和感を持ちつつも、その光景を見守る。
ウイング「メダフォース…ライジングアロー!」
ウイングの引いた左腕に、粒子が集まる。
だんだんとその光は、強さを増していく。
そして…
ウイング「いっけぇぇぇ―――――!」
光の矢が、放たれる。
地上にいるメダロットを飲みこみ、轟音を轟かせる。
リオン「これが…メダフォース…」
その威力に圧倒されている。
たくさんいた野良メダロットは、その一撃で戦意を失ったのかもう、出てこなかった。
―リオンの部屋―
勝手に出ていった事は気付かれずになんとか部屋に戻る事は成功した。
リオン「覚醒…ってこんな凄いもんだったのか。」
とりあえず今は状況を理解しようという事で話し合っている。
リュー「メダルの神秘で御座る。」
リオン「…………。」
もはや突っ込むべきか突っ込まないべきかの問題になっているがここは突っ込まないで置くことにした。
ウイング「なんだか…当事者の俺としては凄い何かが理解できたような気がしてきた。こう…なんかロボトルのコツみたいなのとか色々格闘のコツとか。なんかそんなのが覚醒の瞬間に流れこんできた中からは凄い力があふれてきて俺としてはもう最強!てな感じなんだがどうかね?」
ふふん、と言った感じで腕を組むウイング。
リオン「戦闘データか?っていうかどうかねなんて言われてもしらねーよ。」
呆れたような表情を取る。
ウイング「明日からの俺はもう無敵だぁ!」
いきなり高笑いを始めるウイング。
リューはもう屋根の上に上っていってしまった。瞑想でもするのだろう。
リオン「うるさい!俺はもう寝るから、静かにしろよ。」
精神的に疲れた為と、もう時間的に遅いためベットに入る。
今日は色々あったなぁと思い出しつつも瞼を閉じる。
夢の世界に突入するまでは、そう長くは時間はかからなかった。
翼が、翼竜への進化を遂げた。
物語が、大きく動き出す。
蒼き翼竜と黒きカラスが、再開を果たすことになるのはそう先の事では無い。
続く