「リオン、起きろ、おきろっての。」

ウイングの声が夢の中にいた俺を引きずり出してくる。今日は木曜、休日だろ。



翼のメダロット 第八話 「強さ」を求めて


背中が痒いなあと思いつつもリオンを起こそうとする。

ウイング「いま8時20分だぞ!今日は木曜日、平日だろうが!」

起きたのか起きてないのか、意味不明な事を言い出した。

リオン「平日?ああ、半額ね。んじゃ、俺ハンバーガー一個。あと、コーラも。」

ウイング「いいから起きろよ!また遅刻するぞ。っていうかもう終わってるし、それ。」

布団を引き剥がし、リオンをベットから落とす。

まだ寝ぼけなまこな様だ。

リオン「…次回、翼のメダロット『明日への勇気』、また来週。」

カメラ目線で。

ウイング「早くしろ!次回予告なんていいから!」

リオン「冗談だ。制服を取ってくれ。」

ようやく正常な状態に戻ったようだある。といってもまぁ普段から変人っぽいが。

ウイング「ほらよ。もう時間ねぇぜ?」

リューのまとめておいた制服を渡す。

リオン「何分?」

パジャマを脱ぎ、体育着を着ながら。

ウイング「えっと…8時26分。」

体育着の上から水色のYシャツを着、ズボンをはく。

リオン「じゃあ、ウイングに乗ってけば間に合うな。」

サブバックを背中にかけ、階段を降りる。

台所からパンを一つ掴み、靴を履き、外に出る。続けてウイングがついてくる。

ウイング「俺に乗っていくってどういうことだ。」

リオン「こういうことだ。レクリスモード。」

肩のポットが腕に移動し、腕の射撃ユニットが肩に移動する。足が反転し、タイヤが出る。レクリスモード完成。

リオン「よし、ゴー!」

ウイングの背中に乗り、角を掴む。

ウイング「…しゃあねぇ。しっかり掴まってろよ!」

エンジンを全開にし、走り出した。

 

 

瑠璃「おっす、リオン。」

リオン「相変わらず元気だな。」

机の横のフックにカバンをかける。

瑠璃「ヒロインだもの。」

リオン「そうか。」

傍で笑う瑠璃。それを見てやっぱり日常が一番いい。リオンは少なくとも今はそう思った。

瑠璃がそばにいて、好きなときに好きなようにロボトルをする。友達と馬鹿みたいな事をする。日常がやはりいいと彼は思った。

ただ授業がなければ。

 

省略。

 

放課後。

シン「リオン、ロボトルしようぜ!今日こそ勝つぞ!」

唐突といえば唐突だがいつもこんなものである。

リオン「おうよ!裏庭で待ってろ!」

シン「にげんなよ!」

教室から出ていくシン。

リオン「さぁって、どっちで行こうかな。」

右腕の白青のメダロッチと左腕の黒灰のメダロッチを交互に見る。

瑠璃「何やってんの?」

端から見れば踊っているように見える。

リオン「ああ、これからロボトルやるからどっちにしようかなって考えてるんだ。」

瑠璃「それじゃあ、ウイングにしたら。」

リオンの右腕の付け根…右手首に巻かれたメダロッチを指差す。

リオン「何でだよ。」

瑠璃「なんかそっちのほうがリオンに合ってるような気がするのよ。」

リオン「ウイングが、俺と?」

瑠璃「それに…ウイングには何か感じるのよ。私の勘に。」

自分の額に指を当てて。女の勘という奴であろうか。

瑠璃「ま、ロボトル頑張りなさい。」

リオン「おっけー。」

階段を下り、渡り廊下を抜け雑木林が生茂る裏庭へと行く。

真ん中あたりの湖の傍。そこがロボトルすると決めたときに落ち合う場所である。

シン「おっ、来たな。」

左腕のメダロッチに手をかける。

リオン「おうよ。」

同じように右腕に手をかける。

リ&シ「転送!」

シンのメダロットはNIN型、名は忍。サンニンジャ以降のバイザータイプで打撃系。それが特徴。

ウイングはおなじみのKBTサイカチス カスタムタイプ。初期型と同じ右腕ライフル左腕マシンガン頭部反応弾。そしてポットに追加されたエアーブースター、それが特徴。

適当に反対側で、相手の指示が聞こえないぐらいの距離を取る。

「その勝負、合意と見てよろしいですねッ!?」

突然空から振ってきた、赤い蝶ネクタイに白いYシャツ、サラリーマンといった顔つきの男。

「私、Mr.パセリと申します。このロボトルは公式ロボトルと認定されました。それでは…ロボトルファイト!」

何故か承認する隙も許されず始まるロボトル。

兎に角、ウイングに指示を送るリオン。

先制のバリスターを連射。

難なく回避し、木の影に消える忍。

ザッ、と落ち葉を踏みしめるウイング。ぐるりと周りを見まわすが何処にいるか分からない。

何処だ。目をとじ、神経を研ぎ澄ませる。

…右だ!ヒューザーを向け、連射する。しかし、リオンの指示は違った。

リオン『ウイング、後方に向かって反応弾!』

指示通り、反応弾を撃とうとする。何かに縛られるようにそれができなかった。最近の、ファントムとのロボトルからロボトル中に何度も味わうこの自分を縛る不快な感覚。

ちっ、と心の中で舌打ちし、前へ駆ける。

後ろから忍が着いて来てるのを感じる。

そろそろか。心の中で呟く。

右足でブレーキをかけ、左足を後ろへ踏みこむ。フューザー、バリスターを連射。しかし忍に直撃する事はなくただ虚空を通過していく。

シン『いまだぁ!』

ガサッ、木の葉がゆれた。バーチャルアイから見るリオンにはその音は聞き取れこそしたものの、正体は分からなかった。

次にバーチャルアイの画像が変わったときには地面の落ち葉が移っていた。

ウイング「くっそ…ネットか…。」

ネットによって身体が地面に押さえ付けられ、身動きが取れない。

忍「降参するなら外しますよ?」

ウイングの上にのしかかってくる忍。両腕を押さえられライフルも向けられない。

ウイング「しゃあない…こうさ…」

リオン『しない!』

ウイング「ちょ…こちとら動けないんだぞ!」

リオン『まだだ!動けなくても撃てる武器!』

一瞬、躊躇したがすぐにその指示を受け入れた。

シン『な…?どうせハッタリだ!忍、ぶっ潰せ!』

忍「無抵抗な敵を倒すのは勺ですが…」

忍が拳を振り上げる。

ウイング「降参するなら見逃してやってもいいぜ?」

忍「何を頓珍漢な事を言ってるんですかッ!?」

忍の拳がウイングの頭部を撃ち付けた。それとほぼ同時にKBT型のシンボルである角が火を吹いた。

慌てて飛びのく忍。しかし自動追尾効果がある反応弾も負けてはいない。

巧みにカクカク上下移動をし、忍を追いかける。

シン「メダフォースだ!」

忍「しょうがありません…縦一閃!」

忍が拳を振り上げると同時に、斬撃に似たようなものが放たれ反応弾を一個爆発させる。

残るもう一個も忍の近くの地面に当たり、爆発する。

 

 

ウイング「なかなか外れない…くっそぉ…」

忍が反応弾から逃げまわっている隙にネットを外そうと思うがなかなか外れない。

リオン『早くしろよ、戻ってきちゃうぞ。』

ウイング「分かってる!…ああ、もう!」

無理矢理両腕を開こうとしたら、あっけなくネットが外れた。

ウイング「あ、外れた。」

リオン『早くしろ!…そこの木陰に隠れて、狙撃!』

木の影に隠れ、右腕を支える。

木越しに、あたりを見まわす。

ウイング「そこね…見える!」

忍のうろついているのが、木々の間を通して見える。

ウイング「よーく狙って…いっけぇ!」

ヒューザーを、弾のある限り撃ちこむ。

シン『忍、銃声が聞こえなかったか?』

メダロッチを通しての、シンの指示。

忍「え?」

拍子抜けした声で、右のほうを見る。どうやらそっちの方にシンがいるらしい。

シン『この木々の中…相手は射撃、狙撃があるはず!』

忍「そっか…わぁ!」

銃弾が当たり、吹き飛ぶ。

ダメージ率としては大きくはないが見えないところからの狙撃というのは心理戦でも不利になる。

シン『…相手は射撃、狙いさえつけられなければ。分かってるな?』

忍「え?あ、うん。」

僅かに緑のバイザーに光が灯る。

頭部パーツの能力、隠蔽を使い姿を消す。

 

ウイング「ありゃ?何処行った!」

残りの弾がない右腕のヒューザーを下ろし、左腕のブラスターに右手をかける。

リオン『くそ…忘れてた!忍の能力を!』

ウイング「え?単なる格闘じゃねーの?」

リオン『頭部パーツの能力は隠蔽…姿を消す事が出来るって事だよ。リューなら索敵でなんとかなったけど…』

その声はちょっと辛いといった感じ。

ウイング「俺じゃ厳しい、か。」

眼を瞑り、気配を探る。

その左腕の銃口が、木漏れ日を受けて輝いている。

 

シン『慎重に行けよ…一度通信を切るからな。』

忍「ん。出来るだけやってみるさ。」

通信が切れる。

それを確認すると隠蔽のかかった状態で木々を渡り、ウイングの上までくる。

忍「(結構離れた位置にいたのか…この距離で狙撃って結構すごいなぁ。でも、こっちの接近に気付いていないのなら!)」

木から飛び降り、ウイングの後頭部を殴る。

ウイング「いってぇ!何処だ!」

ブラスターで弾を滅茶苦茶にばら撒く。

当然そんな弾に当たるはずもなく難無く回避する忍。

リオン『やっぱり来たか…前!』

ウイング「一発でもいいから…当たれ!」

ブラスターを前方に向かって連射。

しかし何かに当たる気配もなく前にある木に弾丸が突き刺さる。

ウイング「外れたぞ。…いったいなぁ、もう!」

またも後頭部への攻撃。軽く頭を擦るウイング。

リオン『やっぱり駄目か。』

ウイング「やっぱりってなんだ、やっぱりって!」

適当に前に動き、攻撃を避けようとする。

リオン『本気で行くぞ!反応弾地雷!』

返事をする代わりに、反応弾をシンボルであるその角から撃ち出す。

下を向き、柔らかい地面に突き刺さる反応弾。

ここで何故相手に向かって飛ばさないのか?と思う人もいるかもしれないがミサイル系は「ロックした相手」を追いかけるものであり、隠蔽によって姿がわからないため、撃てないのである。

ウイング「いっけぇ…エクス、プロージョン!」

ブラスターの銃口、両方から一発ずつ銃弾が放たれ正確に反応弾を射貫く。

流石は必殺武器。その威力は爆風だけでも当たり一体に広がる。

リオン『左斜め前、角度32度、その黒いのを撃て!』

ウイング「そこか!」

ブラスターを上に上げ銃弾を放つ。

弾があたり、装甲が削れる独特の音がする。

どしゃ、と地面に何かが落ちる音がする。

ウイング「見える、そこ!」

地面に落ちた黒いものを残りのブラスターの弾を全て放つ。

隠蔽が消え、メダルを射出する忍。

セロリ「ハイ、神龍選手の勝ち。ではパーツを受け取ってください。」

忍の右腕からパーツを外し、セロリがリオンに渡す。

セロリ「では次が待っていますので…」

すごい速さで林の奥に消えていくセロリ。ある意味怖い。

シン「通信切ってたのは失敗だな。」

メダルを拾い上げるシン。

リオン「いつの間に来てたのか、気付かなかった。」

シン「ま、忍者だからな。そういえば、どうやって忍の隠蔽見破ったんだ?」

自信ありげに鼻の下を擦る。

リオン「嘘つくな。おめー本物の忍者に失礼だろ。隠蔽を破ったのは反応弾を爆発させて、その煙の歪みで見破らせたんだ。隠蔽で透明になったといっても爆風の歪みまでは消せないはずだからな。」

ウイングが戻ってくるのが視界の隅に見えたので、よくやったという代わりに片手を上げる。

同じように手を上げるウイング。

リオン「んじゃ、俺は帰るから。」

地面においといた学校指定のバックを肩からかけ、その場から去ろうとする。

シン「おう。じゃ、また明日。」

メダロッチを操作しながら、適当に相槌を撃つ。

 

 

ロボロボ団(エセ)に入ってからリオンはこの調子でいっつもロボトルばかりしている。

前はこれほどまではロボトルはしていなかったし、この時間帯は何処かに遊びに行っていたりした。

しかし、今はロボトルばっかである。

瑠璃「全く…何考えてるのやら。」

帰り道、地面を見ながら呟く。

流石に通いなれた道だけ会って、下を見たままでも信号の前で止まる。

ふと、視線を前にやるとこちらに手を振っている女性に目が行った。

水色の髪の女性、パレット。いつもの薄緑の服ではなく、私服。

返事代わりに手を振る。

 

喫茶店

パレットの前にはコーヒーが、瑠璃の前にはオレンジジュースが置かれている。

パレット「リオン君、どうしてる?」

隅においてある小瓶から四角い砂糖の塊を一つ取り出す。

瑠璃「どうしてる…といわれましても、ロボトルばっかしてるんですよ、あいつ。」

不満をパレットにぶつける瑠璃。

パレット「そう…やっぱり、実践経験を蓄えてるのね。」

砂糖を入れ、コーヒーカップの中をのぞく。波紋で自分の顔が歪んでいる。

瑠璃「実践経験?」

パレット「そ。これが最後に言った言葉覚えてる?」

オレンジジュースを吸っていたストローから口を離す。

瑠璃「『俺に出来ないのは勉強ぐらいさ』って奴ですか?」

一瞬ビックリしたように目を広げるが、すぐに元に戻す。

パレット「…瑠璃ちゃん笑わせないでよ。そこじゃなくて『まかせとけ』ってとこ。彼の実力じゃレイヤーに勝つもの精一杯。強敵に勝つには龍神の血の力を使わなければならない、と。でもそれを彼は拒んでる。つまり、自分の力で勝ちたいという事よ。」

一気に温く(ぬるく)なったコーヒーを飲み干す。

瑠璃「自分の…力?自分の力で勝ちたいって事ですか、その龍神の血の力を使わないで。」

パレット「自分の力で任せてもらえるように、彼は強くなろうとしてるの。神龍家の家系の力じゃなくて。神龍 リオン自身で見て欲しいって思ってるはずよ。」

瑠璃「そうですか…リオンも大変ですね。」

苦笑いする瑠璃。

パレット「そうね。」

 

 

リオン「へっくしゅ!」

思いっきりくしゃみするリオン。

リオン「誰か人のこと噂してるな…」

 

パレット「そろそろ、リオン君の周りが動き出すわ。上の方もリオン君の獲得に動き出し始めてる。それに…ウイングの覚醒も近いし。」

瑠璃「覚醒?」

聞きなれない単語が出てきたので、聞き返す。

パレット「そう、覚醒。一般的には出回って無い言葉だけどメダルの進化のことを指すわね。ただの進化じゃなくて、それを越えるとメダフォースという特殊な技ができるようになるの。レアメダルはそれをしなくても撃てるけどね。」

瑠璃「へぇ…ウイングのメダルってレアメダルってやつじゃないんですか?」

氷だけになったコップの中をストローでぐるぐる回す瑠璃。

パレット「一応レアメダルだけど…なんかデータ詰め込まれちゃったりこの世界のものじゃないとかでまだ撃て無いみたい。」

ふぅ…とため息をつくパレット。

瑠璃「はぁ〜、そうなんですか。」

ぽかーんと口を開けて頷く瑠璃。

ふと、窓の外に瑠璃が見なれた人物が通りすぎていこうとする。

瑠璃「あ、リオン。…では、ここらへんで!」

バックを肩からかけて、ダッシュで店から出てく。

パレット「会計…私持ち?まいっか。上にまわしちゃえ。」

ロボロボ団副首領に向けての領収証を書かせ、そそくさと店から出てくパレット。

副首領というとこが実にセコイ。

 

 

 

瑠璃「りおーん!」

後ろからの声に、立ち止まって振りかえる。

リオン「なんだよ、俺は疲れてるんだよ。」

うんざりした表情で言うリオン。

瑠璃「何言ってるの!強くなるんだったらまず第一にスタミナよ、はい。スタートォ!」

リオンの手を引っ張り、走り出す瑠璃。

諦めたような表情で走るリオン。

リオン「…俺は疲れてるんだぁぁ!」

その様子をかげで見守るパレット。

パレット「元気ね…さあって、トルース、フェイク!」

自らのメダロットをリオン達に向かって走りだしたメダロット達の前に転送する。

リオンを捕獲する前にその2体を倒してしまおうと考える捕獲メダロット。

その数、10。

しかし、どれも熟練というほどの実力は無く、その2体の前にあっけなくやられる。

トルース「甘い。年季の差だな。」

腕の中にナイフを収める。

フェイク「…。」

依然黙ったまま浮遊する。

パレット「私達は今、切り札を失うわけにはいかない…貴方達を倒すために。」

誰に言うとも無く呟きその残骸をあとにする。

 

水色の髪が、風になびいた。


続く

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