リオン「ここだな!」

見上げるリオン。所々塗装が禿げているものの、それなりには立派なビル。

リオン「…で、どうしたらいいと思う?」

両腕の愛機に尋ねる。

ウイング『とりあえず中に入ったら?』

とりあえず今はメダロッチの中の2体。

リオン「そうだな!虎穴に入らずんば獅子を得ず!」



翼のメダロット 第7話 変わる時


中に入ったリオンが見たものは、なんか歓迎会でもやるかのように飾り付けられた部屋と自分と同じぐらいの歳の少年たち。

リオン「…なんだ?ここは。」

呆れながらも、しばらく待つことにした。

 

パレット「来たようね、リオンくん。」

下からは見えないようなガラスで、上から見下ろしてるパレットと瑠璃。

瑠璃「でも、こんなに集めて何をする気ですか?」

パレット「リオンくんの実力試しってとこかな。」

瑠璃「でもあいつこの間から本格的にロボトル始めたばっかで…」

瑠璃の話をさえぎるように話を続ける。

パレット「私に勝った時も、レイヤーに負けた時も、彼は本当の力を出していないの。神龍家だけが持つ、蒼い髪の力を。」

瑠璃「蒼い髪?」

ふと、思い出してみればリオンの父は蒼い髪だったなあと頭の中で瑠璃は考えた。

パレット「そ。実際身体能力が上がるらしいんだけど…一説では未来が見えるとか、見えないとか。」

瑠璃「すごいですね…それ。」

パレット「でも、あの中で彼に本当の実力を出させるメダロッターは多分いないわね。」

瑠璃「駄目じゃないですか、それ。」

パレット「だいじょーぶ、そのための手は打ってあるから。なんのために彼はここに来たと思ってるの?」

瑠璃「なんでって…私を助けるため?」

パレット「そ。多分のそこでレイヤーとロボトルさせれば本気を出してくれる…はず。」

瑠璃「この間は惨敗でしたからね〜。」

まるで他人事のようにいう瑠璃。まぁ実際他人なのだが。

 

 

リオン「あ、なんか始まるみたいだ。…あれは、レイヤー!」

前のほうで茶髪の、薄い緑色の服を着た女性が何やら説明している。

リュー『そろそろ出してくれ。』

リオン「わかった、よし!」

両腕をクロスさせ、メダロッチを構える。

リオン「いくぜ!リュー、ブレードウイング!転送!」

両腕のメダロッチから、光が放たれる。

光が集束し、カブトとクワガタを形作る。

ウイング「で、何をやるんだ?」

リオン「ああ、これから地下で勝ちぬき戦をやって最後にレイヤーとロボトル、それに勝ったら賞品をくれるって。」

リュー「賞品は瑠璃だったりして。」

冗談混じりにリオンに言う。

リオン「そうかもな。さて、一人一体ね。じゃあ、リューでいくぞ。」

ウイング「じゃ、俺は休みだな。」

ふらふらとどこかに歩いていってしまうウイング。

 

 

中央だけ丸くくぼんだステージ、ビルの地下にあるコロシアムのようなロボトル場。天井までは十メートル近くあり、照明が備え付けられている。

リオン「じゃ、行くぜリュー!」

左腕のメダロッチの蓋を開き、構える。

画面に表示される、装甲値、ジェネレーターの出力、メダロットのタイプ。

相手は、射撃型。リューとは対を成すもの。

「それでは、ロボトルファイト!」

リュー「いくぞぉ!」

地を蹴り、真っ直ぐに突っ込む。

相手が射撃を開始すると共に、上へ飛ぶ。

リオン「リュー、アンカーだ!」

左腕のインテスビートが反転、代わりにアンカーフックが出てくる。

アンカーフックを伸ばし、相手の顔を掴む。

そのまま紐を巻き取り、一気に接近。相手は顔を掴まれ、滅茶苦茶に弾を撃つ。

リュー「甘いな…もらった!」

前にも書いたようにリューのフォーバイスは上下逆についている。

そのまま振り下ろし、背で殴る。リューの瞳が、強く輝く。

振り下ろした刃を、振り上げる。

一閃

オイルを噴出し、吹っ飛ぶ敵。

「はい、神龍くんの勝ち。」

リオン「フフフ…完璧だ。」

にやりと笑うリオン。

 

 

ウイング「ここ…どこだ?」

どうやら迷ったようである。

ふと、部屋を覗くと白いメダロットがあぐらを組んで何かをやってる。

「スラッシュが…俺の陸戦型ジマーが!」

陸戦型ジマー、機動メカガンダーシリーズの量産機。どうやら彼が見ていたのは陸戦型という事からリオンの言ってたものらしい。

ウイング「あんた…何やってるんだ?」

呆れ半分で尋ねてみる。

「俺か?俺はテムジン!」

いきなり立ちあがり、自信満々に言う。

ウイング「いや、名前じゃなくて。」

ツッコミ。

テムジン「聞いてくれよ!俺の陸戦型ジマーが…俺のスラッシュが…やられちまったんだ!」

ウイング「なんだそりゃ。」

テムジン「ふ…まあ、こいつを見ろ。」

一枚のCDを渡す。

目からレーザーを出し、CDをスキャニングする。

 

 

リオン「次、いくぜ!リュー!」

リュー「まかせろ。」

フォーバイスとインテスビートを構える。

今回の相手は外見から重装甲格闘型。

リオン「ああいうのは食らったら結構ダメージ大きそうだな。回避重視で行くぞ。」

リュー「大分勉強したな。」

リオンの方を見ず、腕を横に伸ばし親指を立てる。

リオン「まあな。」

メダロッチを構える。

「ロボトルファイト!」

迅速で敵の懐に飛び込む。

リュー「遅い!」

インテスビートを脇に叩き込む。よろけるがまだまだ動くといった感じの敵。

リオン「後ろ!飛べ!」

KWG特有の脚力で瞬発的に飛びあがる。

さきほどまでリューがいた場所を重装甲型の拳が通りぬけていく。

リュー「いい指示だ、遅れていたら俺の装甲じゃやられてたか。」

右腕を上に振りかぶる。

リオン「一気に行くぜ!」

リュー「超!」

フォーバイスの背で頭を殴る。重装甲型の目の前に現れる。

リュー「熱血突きぃ!」

フォーバイスで突きを何回も何回も高速で相手の腹部に撃ち出す。

何十回ともいえる突きで脆くなった腹部の装甲。

リュー「成敗!」

最後の突きを、目一杯相手の腹部に突き刺す。…つーかちがうよ、それ。

フォーバイスを引きぬき、リオンの前まで一気に飛び戻る。

リュー「俺の勝ち。」

そう呟いた瞬間、相手の腹部からオイルが吹き出す。もんどりうってそのまま倒れた。

「しょーしゃ、神龍!」

リュー「楽勝楽勝♪」

 

 

ウイング「スラッシュが…俺の陸戦型ジマーが!」

目に手を当てて泣くようなしぐさをとる。

テムジン「分かってくれるか!…漢(おとこ)の死に様はこうでなくちゃな!」

一緒になって泣くような仕草をとるテムジン。

ウイング「師匠…こんないいものを俺は知らなかったなんて!」

後ろに誰かはいって来たのにも気付かず一人感動するウイング。

テムジン「そうだろうそうだろう!これが熱血なんだよ。」

訂正…一人ではなかったようである。

「だれ?その青いメダロット。」

大人の、物腰柔らかそうな声。

テムジン「リウ、相変わらず気配を察知させずに近づくの上手いな。」

リウ「君が鈍感なだけさ。」

ウイング「…誰?」

ウイングにとって全く面識がない人物。

テムジン「ああ、こいつ俺のマスター、安藤 リウ。」

ウイング「俺、ブレードウイング。」

リウ「よろしく。ところで、君そのボディはKBT型だね。少しデータ取りの為、改造させてもらっていいかい?」

ウイング「え?どんな?」

リウ「ブースターの装備をさせてもらうだけだよ。」

優しい笑顔を崩さず、はなしを進める。

ウイング「ん〜いいかな。で、俺はその間どうするんだ?」

リウ「ああ、しばらくの間はアレを使っててくれ。」

壁にもたれかかっている、緑色のメダロット。ヒーラヌーラ。

ウイング「かっちょわりい…ま、いいか。」

背中のメダルカバーを開く。そのメダルに一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐにメダルをはずす。

リウ「名前からしてもしかしたら…とは思ったけど、やっぱりウイングメダル。君だったんだね。」

魂の抜けたカブトムシを引きずり、工具を取り出す。

 

 

リオン「次の相手で終わりか。あとはレイヤー…」

リュー「さて、いくぞ。」

ほとんど傷はついていない、外見からでは。

「ロボトルファイト!」

リオン「…今までの敵とは違う!リュー、気ぃ引き締めていくぞ!」

リュー「分かった!」

いきなり銃撃、とは言ってもロボトルは始まっているが。

リュー「それを食うわけにはいかん!」

横っ飛びで回避、そのまま真っ直ぐ突っ込む!

敵「甘い!」

頭部を狙った射撃!

リオン「射撃は『線』で見る、メダチェンジ!レクリスモード!」

メダチェンジで姿勢を低くし、回避。

リオン「突っ込めぇ―――!」

続けて放たれる銃弾を素早くかわし、一気に接近戦の間合いまで詰める!

リュー「もらったぁ!」

メダチェンジを解き、フォーバイスを振り上げる。

カキィンという音がし、フォーバイスの刃が欠ける。そのせいか、相手の腹部に浅い傷だけが残っている。

長い間使っていたせいか、それとも先ほどの突きで脆くなったのかとリューが頭の中で考えるが、相手は待ってくれないようである。

リュー「ちっ…」

インテスビートを撃ちこむよりも早く、相手の射撃が再開される。

銃弾を受けながらも、インテスビートを相手の頬に叩き込む。

吹き飛ぶ相手。背中からメダルを射出する。

リューの白い身体に、所々、とくに腹部に黒い点が残っている。

リュー「くそ…、攻撃を受けすぎたか…」

肩で息し、両腕の武装を腕の中にしまう。

「勝者、神龍 リオン。」

レフェリーが淡々と告げる。

しかし、今のままリューでファントムと戦ってはあまりにも勝ち目はないと考えるリオン。

その表情は暗い。

 

 

ウイング「ドルフィン…ブロウ!」

野球選手がアンダースローを投げるかのごとく姿勢を大きく低くし、踏み込む。

そのまま腰の回転させ、右腕を振り上げる。

空中で一回転し、着地。

テムジン「おお、なかなか様になってきたな。」

リウ「よし、出来た!」

ウイング「マジ!?早くしてくれ!」

背中のメダルカバーを開ける。テムジンが銀色の、翼の描かれたメダルをはずす。

テムジン「みたことのない絵柄だな。」

中心の青いコアが輝く。

そして、それをカブトムシの背中にはめる。

緑の光が目に灯り、ゆっくりと立ち上がる。

ウイング「…前よりちょっと使いやすい…?で、ブースターって何処についてるんだ?」

リウ「ああ、肩のポットのところさ。自動で左右同じ向きに向くから細かい事は心配は要らない。」

ウイング「なるほど。…こんな感じか?」

肩のエアーブースターで、軽く浮く。

リウ「そうだけど…それじゃああまり飛べないからね。本来は突進用とかに使うんだよ。」

ウイング「へぇ…」

ブースターを切り、着地。

テムジン「そろそろ神龍 リオン対レイヤー戦が始まるって。見に行こうぜ、リウ、ウイング。」

テムジンが小型テレビを見ている。

ウイング「え、リオン!?どっちだ!どこでやるんだ!」

テムジンのKWG似の肩を掴む。

テムジン「あっちだけど…どうしたんだ?」

あっちと右の方を指差す。

ウイング「あの馬鹿!わりい、俺いかなくちゃ!」

廊下に駆け出て、肩のエアーブースターに空気を点す。

ウイング「そんじゃ、機会があったら!」

ものすごい速さで廊下を翔け抜けていく。

 

 

リオン「…いくぜ!」

左腕のメダロッチを構える。

リオンの反対側に立つ女性、レイヤー。

リューの反対側に立つメダロット、ファントム。

リュー「少々厳しいな…」

装甲値はほとんど残っていない。さきほど、攻撃を受けすぎたためである。

リオン「ったくあの馬鹿は何処行ったんだ。」

ぼやいてるうちにレフェリーが腕を上げ、構える。

ふぅ、とため息をつきメダロッチを構えなおす。

「ロボトルファイト!」

レフェリーが腕を下ろす。それと共に指示を出すリオン。

リオン「リュー、反射には気をつけろ!」

リュー「分かってる!」

地面を蹴り、ファントムまで距離を詰める。

レイヤー「今回は一体なのね…ファントム!」

ファン「ああ。」

右腕の槍を、左腕の盾を構える。

リューがインテスビートを繰り出す。槍でそれを受けとる。

リュー「まだだぁ!」

地面をもう一度踏み、ファントムの頭部に蹴りを入れる。があまりきいているようには見えない。

盾でリューを弾き飛ばそうとするが、リューは右手で盾に触れ、ファントムの肩を踏み台にして宙に飛びのく…ように見せて右腕のワイヤークローを伸ばす。

ファン「無駄だ!」

槍を落し、右手でワイヤーを掴み、その延長上にいるリューを壁に叩きつける。

リュー「く…」

起きあがろうとするが、激突の衝撃を右腕と脚部でかばったおかげでその二つは機能停止、立てない。

リオン「リュー、立ってくれ!負けるわけには、いかないんだぁ―――――!」

左腕で壁を掴み、立ちあがろうとするリュー。

ファントムが一歩、また一歩と確実にリューへと近づいていく。

 

風が、フィールドに翔け抜けた。

ファントムの前に立ち塞がる、蒼い、風。

ウイング「ここは、俺っちに任せな!」

天に向かって伸びる角、蒼いその身体、そしてその緑の瞳。

―――――ブレードウイング

リ&リュ『ウイング!』

リオン「遅いぞ、てめぇ!」

少し怒ったように言う。

ウイング「その分活躍するさ!まかしときな。リュー。」

リュー「ふ…じゃあ、頼むぜ…。」

立とうとするのを諦め、そのまま項垂れる。

ファン「来たか…!」

ウイング「おうさ!リベンジは果たさせてもらう!」

両腕の銃口を伸ばし、構える。

リオン「メダロッチに新しい項目が…Wing…ウイングシステムって読むのか?それに、エアーブースター?…もう、負けるわけにはいかない!本気でいくぜ!」

リオンが目を閉じる。

その黒い髪が、根元から、蒼く染まっていく。

レイヤー「あれが神龍家の…蒼い髪…。」

髪が、全て青色に染まる。右腕のメダロッチを構える。

リオン「ウイング、突撃!」

肩のエアーブースターを開く。空気を灯し、推進力とする。

リオン「ファントム手前でブースター停止、スライディング!」

ファントムの手前まで突っ込む。

槍を突き出すファントム、それに合わせるかのごとくスライディングするウイング。

脚部への攻撃を受け、足が取られるファントム。

リオン「いっけぇぇぇぇ!ヒューザー、零距離射撃!」

ウイング「おおおおお!」

ウイングの上に倒れ掛かってきたファントムの腹部に、右腕の銃口を突き付け撃ちこむ。

リオン「ブースター!」

槍を引こうとするファントムをブースターで急速に立ち上がりはじき飛ばす。

レイヤー「くっ…やるわね!」

だいぶおされ気味のレイヤー。先程とは大分違う。

リオン「ウイング、リクガンフレア!ただし…」

ウイング「わかってる!正義の拳を受けてみろ…」

エアーブースターを使い、5メートル近く宙に浮く。右腕を引き…

ウイング「リクガンフレアァ―――――!」

前に突き出し、突っ込む。ファントムまでの距離は約6メートル。

レイヤー「ファントム、反射!」

ファン「ああ。」

盾を斜め上に突き出し、リクガンフレアを受けとめようとする。

リオン「今だ!」

右腕を引き、ブースターを、残り1メートル近くのところで切る。

慣性の法則にともない、そのまま勢いに乗り前に突っ込む。

ファントムの目の前に着地、姿勢を低くして踏み込み、盾を掻い潜る。

ウイング「こいつが狙いなんだよ!」

左腕を大きく引き、腰を回す。

ウイング「俺式…ドルフィンブロウ!」

技名を叫ぶ、これが熱血なんです。

そのまま腹部へ左腕の拳を突き上げる。銃口がひしゃげたがそんなのお構いなしに、エアーブースターを噴射させる。

宙に浮き上がるファントム。

リオン「もう一回叩き込める!いっけ―――!」

勢いを止めず、曲げていた右腕を構えなおし、今度は銃口をしまいもう一撃、今度は顎に叩き込む。

ウイング「ぬおおおおお!」

宙に舞う2体。一方は、姿勢を崩して。

リオン「まだ機能停止していない!止めだ!」

ウイング「え?まだ!…今度こそ行くぜ、リクガンフレアァ――――!」

右腕を突き出し、姿勢を崩したままのファントムの腹部に突っ込む。拳が腹部につくと同時に、銃口を伸ばし、残りの弾を全て撃ちこむ。そのまま斜め下の壁へ。

そして、そのまま後ろの壁に突っ込む。

派手な音がし、ファントムを中心にひびが入る壁。一気に土煙が上がる。

リオン「勝った…?」

髪の色が、元の黒に戻るリオン。

ウイング「はぁ…はぁ…」

肩で息し、その場に立ち尽くすウイング。

やがて煙が晴れ、目の前に金色のメダルが落ちているのに気が付く。そして、魂が抜けたように項垂れているファントムのボディ。

ウイング「うっしゃぁ!」

右腕を高く天井へ突き出す。

「勝者…神龍、リオン!」

レフェリーが宣告する。それを聞きリューの回収に向かうリオン。

リュー「とうとう使ったか、神龍家の力を…」

リオン「まあな。余り使いたくないがな。力におぼれるみたいな事にはなりたくない。」

リューの背中から、メダルを抜く。そして、ボディを自宅に向けて転送する。

次にこちらに向かって歩いてくるウイングに左手を挙げて向かう。

ウイング「何で髪が蒼くなったんだ?」

リオン「俺の家系の力さ。大した特典はないけどな。お前も休むか?」

ウイング「いや、いい。一人で帰るから、先に帰ってていいぞ。」

リオン「そうか。あ、帰りのバス代な。」

ポケットからいくらかお金を渡す。今の時代、メダロットとてバスに乗るのはただではないのである。

ウイング「さんきゅ。あ、夕食間に合わないかもしれないから。…なんか背中かゆいなあ」

またどこかへ走っていってしまうウイング。

レイヤー「随分と派手にやってくれたわねぇ。」

リオンの前に腕を組んで立つ女性、レイヤー。

リオン「なんだ、レイヤー。」

レイヤー「これじゃ修理が大変よ。会場も、ファントムも。それに年上にはもっと敬語とか使って欲しいわね。」

見まわしてみればたしかに酷いことになっている。まずリューがぶつかったところに最後にファントムをぶつけた場所、超熱血突きで飛び散らせたオイルやらなんやら。

リオン「はいよ、レイヤーさん。ところで瑠璃は?勝ったんだから返してくれるんだろうな。」

レイヤー「ええ、もちろん。ほら、あそこ。」

リオンの後ろを指差す。こちらに向かって走ってくる少女。黒い長髪に、活発そうな顔。幼いころから見慣れた少女…瑠璃。

瑠璃「リオ―――ン!」

そのままリオンに飛びつく。ギャフンと声を上げるリオン。

リオン「やめてくれ――、くるし――!」

瑠璃「ごっめんごっめん。まっさかあんたが私の為に来てくれるなんて。しかもちょっとカッコよかったし。『負けるわけには…いかないんだ――!』っていうの。」

けらけらと笑う瑠璃。

リオン「う…、まあ、俺はレイヤーに決着をつけるために来たんだ。お前を助けるためじゃない…多分。」

少し顔を赤くして、顔を逸らすリオン。

リオン「しかし、何で瑠璃なんてさらったんだ?可愛い子ならほかにいるだろうに。」

ごん、と後頭部を殴られるリオン。

瑠璃「それはね…説明するのめんどくさいから前の話のこっちサイドの話し見て。」

半分呆れ顔で、明後日の方を指差す。

リオン「なんだそりゃ……………なるほどね。で、おまえが選ばれたわけだな。俺をここに呼び出すために。」

パレット「そういうこと。」

突然話に割って入る、パレット。

パレット「どうする?私たちの手伝いをしてくれる、神龍 リオンくん。」

困ったような表場で天を仰ぐ。髪が、少しだけ風になびいたような気がした。

目を閉じ、少し考える。

結論は、最初から出ていた。

視線を下ろし、パレットに向ける。

その瞳は、決意と好奇心に満ちたもの。

リオン「やる!俺にできることなら、やってやるぜ!」

ぐっと、決意の拳を握り、前に突き出す。

嬉しそうに笑みを浮かべ、レイヤーのほうに顔を向けるパレット。

こくりと無表情で頷くレイヤー。

瑠璃「あんたならやると思ったけど…ま、これからもよろしく。リオン。」

瑠璃の嬉しそうな表情の中に少しだけ不安が、小さいころから一緒だったリオンには見えたような気がした。

リオン「まかせとけって。俺に出来ない事は勉強ぐらいさ。」

根拠のない自信だが、今のリオンには瑠璃を安心させる方法はそれくらいしか出来ない。

今の、彼では。


続く

 

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