「あーもう、はやく新型できないかなぁ〜」

天井に向かってぼやくウイング。あれから数日が経つがまだ新型…バンガードビートルが出来たという報告は受けていない。

「暇だ〜」

リオンのベットの上をごろごろとねっころがりながら左右に回る。

夏休みも近い、平日の昼下がりである。


翼のメダロット 第11話  翼、起動


ウイング「あ〜……そうだ!」

突然なにかを閃いたかのように立ち上がり、リオンの部屋のドアを荒々しく開け、階段をバタバタと降りていく。

そのまま玄関を開け、家を出る。家の前の道を右に走る。ちょうど…ノリスの家の方に。

 

あるまー「平和だなぁ〜」

ノリスの家の庭でぼんやりと日光浴を楽しんでいる。

平和な日々のはず…それが…

 

ぱぁん

 

間抜けな銃声が轟き、あるまーの足元に弾丸が突き刺さる。

何事かと思い、銃声の方を向く。

エアーブースターで飛んでるウイング。すぐに塀の上に着地し、あるまーを指差す。

ウイング「あるまー、俺の特訓に付き合え!行くぞ!」

あるまー「そ、そんな!ちょっと待ってよ!」

慌てて止めようとするがウイングは聞く耳を持たない。

ウイング「いいから行くぞ!」

腕を引かれ、半ば強引に特訓の相手に連れて行かれることになった。

 

 

―公園―

ノリスにメダロッチを通して連絡し、両腕を盾に変えてある。

ウイング「いくぞ!」

あるまー「ダメっていっても来るんでしょ。」

渋々盾を構えるあるまー。肩のエアーブースターを開くウイング。

地を蹴り、地面すれすれを飛ぶ。

右腕を大きく引き、左肩を突き出す。あるまーまであと僅かの間合いで、右足でもう一度地を蹴り、勢いを更につけ…

ウイング「殺人タックル!」

そのままタックル。しかし盾のほうにダメージは然程見えない。

あるまー「物騒な名前いわないでよ!」

ウイング「今のは余興だ。次は本気で行くからな。」

 

さっき立っていた場所まで下がり、再び地を蹴る。

エアーブースターから空気を放ち、地面を滑るかのように飛び、間合いを詰める。

今度は右腕を引き、姿勢を低くする。

さらに先ほどとほとんど同じ間合いで、右足で地を蹴る。

大きく胸を張り、空を見上げるかのように身体を仰向けにする。

右足が振り子のように、左方向に半円を描く。右肩のエアーブースターが最大限の出力を放つ。

ウイング「俺式…ドルフィン、ブロォ――――!」

右腕を、いきおいに任せ振り上げる。あるまーの盾に拳が当たる感触がする。

そのまま大きく振り上げ、回転しながら上空に飛んでいき、見事片膝をついて着地。10.0。

ウイング「どうよ!」

あるまー「どうよ、と言われても…良くそんなものが思いつくね…っていうか、ドルフィンブロウ自体知らないし。どう違うの?」

ウイング「元は格闘だからな。といっても拳じゃないが。前のドルフィンブロウは下から持ってきて振り上げるアッパー。しっかり踏みこまなきゃ力が入らないんだよ。しかぁし、俺式は一度地を蹴るだけでオッケー!っていうか下から振り上げるのは同じだが勢いが違うんだよ。さ、次だ。」

背を向け、先ほどの場所まで歩いていく

あるまー「まだあるの?」

ウイング「おう。構えろ〜」

両腕の盾を構える。ブラスター、ヒューザーを構えるウイング。

両腕の銃口から一発ずつ、弾を放つ。あるまーに向かってではなく、右の電灯の柱と、左の柵に向かって。

目標物に当たり、進路をあるまーの方に変える二つの弾。

更に頭部から反応弾発射。軌道上に煙を残し、あるまーへと向かって伸びる。そりゃないだろと驚くあるまー。

跳ねかえった弾丸が、反応弾へと当たり、爆発を起こす。もういやだと思うあるまー。

爆煙が晴れた時、目の前にウイングが立っていた。額にヒューザーの銃口を付きつけて。

ウイング「見たか?」

勝利の余韻に浸るかの如く、目を細める。

あるまー「もうたくさんだ!」

涙声で嘆くあるまー。しょうがないかと呟き、特訓を断念する。

ウイング「しょうがないな…かといって俺も暇だしなぁ…。」

あるまー「自分が暇だからって人をこき使わないでよ!」

ウイング「…メロンパン買ってこい。」

公園の外を指さす。

あるまー「食べれないでしょ!わけわかんないよぉ!」

泣きながら公園の外に逃げ去っていく。

ウイング「根性が足りないな。」

呆れながら呟く。っていうか誰だって逃げたくなるだろ、普通。

 

 

−花園三中、放課後−

リオン「誰かロボトルしようぜ!」

叫ぶ。がクラスメート全員が無視。

リオン「…ちくしょー!」

バックを握り、教室から飛び出していく。

シン「…期末テストが近いこの時期にロボトルなんか出来るか。」

誰に言うわけでもなく、ぼそりと呟いた。

 

 

−花園三中、地下ロボトルリング−

対戦相手を見つけて、右腕のメダロッチを前に突き出す。

リオン「KBT−03、サイカチスカスタム”ブレードウイング”転、送!」

リオンの前に光球が撃ち出される。徐々にカブトムシの形を作り、光が消える。青いボディの、サイカチス。

リオン「いくぜ!」

相手は男子生徒…ではないと思えるほどの背の高さ。一応三中の制服は着ているが。目にはサングラスをかけている。半袖の下からぴっちりとした黒い全身タイツのような物も出ている。

見るからに怪しい。が、リオンはさして気にもしていない。

相手のメダロットは見たことも無い、深緑のツタを全身に纏わせた機体。

ティンペットの基本構造に似た形ではあるが、露出してる部分は瞳のでないタイプの目の部分とティンペットがそのままでてる手。

相手を観察しながらメダロッチのカバーを開き、構える。

「ロボトルファイト!」

機械の声が走る。

少し遅れてリオンが指示を送る。

リオン「…どうも格闘っぽい!射撃で行くぞ!」

ウイング「了解!」

バックステップで距離を取りながら左腕のブラスターを放つ。

避けたり、防御したりせずにそのまま受ける緑。

リオン「(…何をする気だ…)」

そのまま射撃を続けるように指示をし、相手の動向を探る。

ウイングが立ち止まり、両腕の銃を放つ。

 

――――ズシャァァァァァ!

 

地面から植物のツタが伸び、ウイングの足に絡む。

ウイング「うわ!なんだこれ!」

ツタが足に絡み、動けなくなる。が、すぐに銃で断ち切り、その場を離れる。

リオン「…そういうことか!ウイング、止まるな!」

ウイング「分かってる!」

ウイングが地を蹴った場所に次々とツタが下から伸びてくる。少しでも遅れたら、また捕まってしまう。

リオン「…奥の手だ、エアーブースター!」

肩の後ろのポットが開き、空気を集める。大地を踏みしめ、ジャンプ。エアーブースターで天井まで飛ぶ。

ウイング「なんなんだよ、もう!」

天井に足を付き、ブラスター連射。しかしツタの色…パーツに変化は見えてこない。

相手「(…神龍リオン。反乱軍のエース候補…、ここまでの男か…?)」

サングラスの下から、リオンの様子をじっくり観察する。

リオン「埒があかない、反応弾だ!」

ウイング「…わり、さっき使っちまった。」

天井を蹴り、ツタの本体に向かって突っ込む。

リオン「…アホか!リクガン、フレアァ―――!」

ウイング「うおおおおおおおおお!」

右腕を前に突き出し、突撃。

あと少しというとこで地面からツタが何本も伸びる。

エアーブースターを巧みに使いツタの合間を切り抜け、なんとか本体が見える。しかし勢いのないこの状態では、ダメージを与えるのは厳しいと判断し左腕を引く。

銃口を引き、地を蹴る。体を思いっきり倒し、胸を張る。

ウイング「俺式、ドルフィィン、ブロォ――――!」

そのまま腰を回し、勢いに任せ拳を振り上げる。

体を覆っていたツタを引き千切るが、その程度である。

リオン「(ツタが装甲を覆っている…?だったら!)」

ドルフィンブロウの勢いで、天井に張りつくウイング。そこにリオンの指示が飛ぶ。

「(ヤツが動く…どうでるか?)」

天井を蹴り、エアーブースターで更にスピードを伸ばし、本体の後ろに着地。着地と同時にリングに波紋のようにヒビが入ったが、もはや気にしてる暇はない。

リオン「零距離…いっけぇ―――!」

リオンが送った指示。「ツタは本体を守るための壁、パーツじゃないんだ!」という事。

左腕の銃口を伸ばし、ツタの隙間に突き刺す。

ウイング「食らえ!」

銃撃が放たれる。今度こそは、確実な手応え。

しかし、左腕からカチンという鉄を撃つような音が何回も起こる。つまり、弾切れ。

リオン「弾切れ!?まだ右がある!」

ウイング「分かってる!」

しかし右腕を突き出そうとするが、動かない事に気付く。何かと思い右腕を見れば、腕にツタが巻き付いている。

それだけではない。

足にもツタが巻きつき、身動きが取れなくなっている。

「リーフ、チェックメイトだ。」

最後の、指示を送る。

ツタが、無知の如くウイングを襲う。動かせる左腕でそれを受けとめるが、それもその場しのぎで左腕が機能停止する。次のターゲットとなるパーツは、やはり頭部。

しかし、ウイングのその瞳に諦めたという事は見られない。

たった、一つの希望。

ウイング「こうなったら、やるぞ。リオン。」

リオン「…おう。」

右腕を伸ばし、頭部ダメージが増えてくことが明らかに分かるメダロッチをウイングの方にむけ、左手を添える。瞳を閉じ、一つのことを考える。

ダメージを感じながらも、その瞳を閉じ、一つのことを考える。

 

――――勝ちたい、と。

 

想いが、力となる。その機構。名を――ウイングシステムと呼ぶ。

それは主と従者の想いが一つになったとき発動する。

今が、その時。

メダロッチが、警告音を上げる。ウイングシステム発動可能と。

リオンが、目を開き、叫ぶ。

リオン「ウイングシステム、起動!」

メダロッチのデータウインドウに次々と文字が流れていく。それは日本語だったり、英語だったりしたがとても読む気にはなれないほどの量。

そして最後に”Wing System ON”と表示される。

ウイングの腹部から光が放たれ、背中に翼を作り出す。更に身体全体が、白い光に包まれる。

緑の瞳をゆっくりと、確かに開かれる。

体を覆っていた光が拡散する。

その姿は、光を受けたような白い身体。両肩の大型ユニット。そして背中の”翼”。

光が放たれた段階で、巻きついていたツタは消え去っている。

ウイング「これが…ウイングシステム…」

開いたその手を、変わった脚部を、そして背中の翼を自分の目で確認し、再びターゲットを睨む。

それを拒否するかのように、リーフと呼ばれたメダロットがすべてのツタをウイングに向けて伸ばす。その数、8本。

一本目を、身を屈めてかわす。そこへ二本目が伸びる。それを地を蹴って右にかわす。

3本目はその上を踏み越え、4本目は翼で飛び、かわす。

羽ばたき、空中から急接近をかける。

5本目を僅かに逸れるだけでかわし、6本目も同じようにかわす。

7、8本目は同時に来る。それを下へ羽ばたき、かわす。遮るものは、なくなった。

右腕を引き、肩のユニットが上下に分かれる。その間に、空気が集まる。

翼を左右に開き、肩のエアーブースターを後ろへ向け、引いた右腕を突き出す。

リオン「いっけぇ―――――!」

ウイング「リクガァン、フレア―――――!」

閃光の如く翔け、リーフの腹部を貫く。

 

通ったあとには、僅かな塵しか残っていない。つまり、メダルが消滅した。

リオン「…マジシャンみたいだな。ホント。」

ため息混じりに呟く。緊張していたその表情が崩れる。

ウイング「見えてたのか。」

翼を開いて減速し、サングラスの前に着地する。

右手に握ったメダルを、サングラスへ向けて投げる。

「…神龍リオンといったか。」

そのメダルを、受けとめる。

リオン「そうだが。」

「反乱軍にしておくには惜しい戦力だな。」

リーフのメダルをメダロッチにはめる。

リオン「…あんた誰だよ。」

「…タクアン。ロボロボ団の幹部だ。」

リオン「じゃあ、あんたは俺の敵だな。」

タクアン「…世界征服なんて、こういう職で無いと出来ないぞ。」

職業なんだ、ロボロボ団って。

リオン「そんなん興味ない。ただ俺の日常を邪魔するなら容赦しない。」

タクアン「そうか。次会うときが楽しみだ。」

口元に笑みを浮かべ、階段を登って行く。

その様子を見るわけでもなく、ただウイングの方を見ている。

リオン「俺は、俺の正しいと思ったことをするだけだ。」

誰に言うわけでもなく、呟いた。

ウイングの変化が解けていく。

 

 

 

―リオンの家―

パソコンを立ち上げたところ、メールボックスへ3通のメールが来てる事に気付く。

二通は広告メール。最後の一通はリウからのもの。

 

「ウイング君の新型機、バンガードビートルが完成しました。

返信で取りに来れる日を書いといてください。

追伸:いよいよあっちの活動が活発になってきました。そろそろ時が来ます。」

 

以上が、メールの内容。

返信ボタンを押し、返信メールを打つ。行ける日時を打ち、送信。

リオン「ウイング、出来たってよ。テスト終わったら取りに行くから。」

ウイング「おう!」

 

 

 

わいわいと騒ぐ2人。その様子を窓越しに聞く女性、瑠璃。

瑠璃「…リオン、勉強しなくて大丈夫かなぁ?」

そう、もうすぐ期末テストがあるというのに、彼は全然勉強していないのである。

 

後日、それは見事にテストに反映されたのは言うまでもない。


戻る