「大変だ…みんな、聞いてくれ。」
現在午後3時34分、メダロット部部室。
鶏頭の少年…鍬利 ハヤトが深刻な表情で顔の前に手を組んでいる。
流「どうしたんだ?」
ハヤトの方を見る。相変わらず深刻そうな表情だ。
ハヤト「電池が…俺の充電池の片方がなくなった。」
部員全員に戦慄が走る。充電池の片方がなくなるという事はハヤトの持っている旧式の充電器では充電できなくなる上にゲームボーイアドバンスもできなくなる。わざわざアルカリ電池なんか買ってたら資金がいくらあっても足りなくなる。
リオンS「それで…いつ頃なくなったんだ?」
落ちついてリオンSが尋ねる。まずは捜査の基本からというわけであろう。
ハヤト「分からない…気がついたら無くなっていた。」
ふるふると首を左右に振る。
ショウ「仕方ない。捜すか。」
午後3時42分 捜索開始
4階
担当 神龍 龍祐
現在位置 廊下
龍祐「電池…ねぇ。そんなもの見つかるのかなぁ。」
今は左腕にメダロッチはつけていない。ライトニングの分も、ナースの分も。家においてきている。
龍祐「とりあえず廊下から見まわっていくかな…。」
視線を下に落し、歩いていく。
が、それらしいものは見つからない。
ふと、ある部活の部室の前で足を止めた。
3階
担当 鍬利 ハヤト 神龍 リオン(S)
現在位置 2年1組教室
リオンS「電池無くすなんてお前ホント不幸な奴だな。」
ハヤト「言ってくれるな。俺だって辛いんだ。」
四つん這いになり、必死に探すがそれらしいものは見つからない。
2階
担当 海 流
現在位置 階段
流「なんで俺が手伝わなきゃなんないんだよ。」
適当にあたりを見まわすが、見つからない。
1階
担当 針志麻 ミナ 白虎 ショウ
現在位置 …不明
二人ともどうでもいいやという事で帰ってしまったのである。
―4階―
龍祐「ここは…心霊部だったっけ?」
静かだなぁと思い、興味本意でその扉を開けてみる。
中にいたのは、窓際に座り、その赤茶げた色の髪を風に遊ばせている女性。
龍祐「(…………。)」
言葉が、出なかった。
幻想的な風景の中の女性。
初めて、味わう感覚。
ただぽかーんと開いた口が情けなかった。
「誰?」
こちらを向く、その女性。制服を見る限りではこの学校の生徒であるようだ。
龍祐「あ…えっと、僕は神龍 龍祐です。」
しどろもどろに答える。
「そう…。メダロット部の子が何のよう?うちは心霊部よ。名前の通り、幽霊部員の溜まり場。あ、私は綾乃 友(あやの とも)。」
その無表情さを漂わせた瞳でこちらを見る。
慌てて視線を逸らし、話しを続ける龍祐。
龍祐「あ…で、電池見ませんでしたか?僕の友人が無くしたらしくて。」
途中、声が裏返りながら事情を説明する。
友「電池?…そういえば、見たような見なかったような…」
唇に人差し指を当て、天井を見上げる。
龍祐「そ、そうですか。…心霊部って、何をするところなんですか?」
友「うちの部?…幽霊とか、様々な現実味のない事を調べる部よ。今日の午後10時、校門の前に来て。」
机の上から飛び降り、そばにあった学校指定のバックをとリすたすたと出て行ってしまう。
龍祐「え、あ、ちょっと!」
龍祐の止める声も聞く気も無くとっとと階段を降りていってしまう。
龍祐「なんていうか…マイペースな人だなぁ…。でも…」
そのあとを言おうとしたとき、下校時刻を告げるチャイムが鳴った。
―リオンの部屋―
夕食の準備を終え、テーブルを皆で囲んでいる。何故か瑠璃もいる。
流石にメダロット勢が入れるほどのスペースもなくなり、床でチュ―チュ―とオイルを吸っている。
全『いただきまーす。』
箸を右手にとり、茶碗を左手にとり、おかずに手を伸ばす龍祐。
龍祐「あ、今日十時ごろ出掛けて来ますね。」
箸で摘んだ、キャベツを茶碗に注いであるご飯の上に置く。
リオン「おう。どうしてだ?」
リオンはリオンで肉を取る。瑠璃も取っているようだ。
龍祐「心霊部がなんかやると言う事で僕も行く事になったんです。」
リオンS「なんでお前が心霊部にいくんだ?」
沢庵(たくわん)をいくつもご飯の上に乗せていく。
龍祐「なんだか、勝手に決められちゃって…」
リオンS「へぇ。…心霊部の部長って確か女子だったな。まさか…」
箸を止める二人。その間にリオンと瑠璃は話を聞きながらもどんどん肉を食べていく。
リオンS「部長さんに惚れちゃったとか?」
ビシッ!と箸で龍祐を指差す。
龍祐「…………(///)」
顔を赤くして、ご飯を少量口に運ぶ。
瑠璃「若いわね〜」
もう僅か2枚しか肉が残っていない。
そのうちの1枚を瑠璃が持っていく。
リオン「そうだなぁ〜」
最後の1枚を取ろうと、箸を持っていく。
が、それよりも速く別の箸が肉を持っていく。
リオンS「おまえら持って行き過ぎだっての!」
肉を口に運ぶ。しかし、それ以前の問題があった。
龍祐「僕、肉1枚も食べてないんですけど…」
困ったように苦笑いを浮かべる。
リ&リS&る『あ!』
午後十時前、花園3中校門前。
今は柵も閉まり、人通りもない。ただ頭の上で電灯が薄く灯っている。
流石に秋になると夜も多少冷えこんでくる。
空には満天の星が輝いてる…わけはなく、強い光を放つものしか見えない。
まだ町が明るい証拠である。
龍祐「…もうすぐ十時。少し寒いなぁ。」
左腕にはめた二つのメダロッチのうち、黒と灰のメダロッチ…ライトニングのメダロッチを夜でも見えるようにぼんやりとした緑の光で光らせている。
やがて、メダロッチが午後十時を知らせるアラームを鳴らす。
「時間には来てる様ね。龍祐君。」
校門の柵の向こうから、呟くような声。
かなりびびる龍祐。
龍祐「あ、綾乃さん…ビックリさせないでくださいよ〜…」
腰が抜けたように、へなへなと座りこむ。
友「貴方が勝手にびっくりしたんでしょ。いくわよ。」
校内にどんどん進んでいく。慌てて龍祐が柵を乗り越え、追いかける。
龍祐「待ってくださいよ〜」
玄関を勝手に空け、下駄箱まで歩き靴を履き替える。
龍祐「いいんですか?勝手に入って。」
声を潜めて友に言う。
友「いいのよ。警備システムは黙らせてあるし、宿直の先生もある程度は握らせてあるし。」
龍祐「握らせて?何をですか?」
暗い階段を、どんどん二人で登って行く。
友「大人が欲しがるものよ。」
…お金。
龍祐「怖い人だなぁ…」
4階までついて来たとき、友が一度立ち止まる。
友「いい?ここではポルターガイスト現象が起こるって言う噂なの。気をつけてね。」
はい、と返事する龍祐。友が先をきって歩いていく。
龍祐「(ポルターガイストってたしかものが勝手に物が飛び回ったり奇声が聞こえたりする現象だったっけ…。)」
心の中で再確認し、友のあとをついていく。
友「…あそこの教室ね…。」
1年2組の教室。こっそりと覗きこんで見ると中で教科書やらなんやらぐるぐると飛びまわっている。
友「あれが…」
龍祐「ポルターガイスト現象…始めて見た。」
しばらくその現象を見ていると、何かがこっちに向かって飛んでくるのに気がついた。しかし、時既に遅く、顔に見事にヒットし、そのまま倒れる。
友「龍祐君?…きゃあ!」
友の顔にも何か当たる。
その様子を見た龍祐がゆっくりと立ちあがる。
龍祐「僕の顔ならまだしも…女の人の顔に当てるなんて…女は顔が命ってよく言うじゃないか!」
自分の顔に先ほど当たったものを掴み、教室の中心に投げつける。
ぎゃ、という声がして飛び回っていたものが全部地面に落ちる。
友「いったぁ…あれ、とまった?」
龍祐「…みたいですね。」
中心で何かが這いずり回っている。
ここまで来たら放って置く訳にはいかないので、友の持っていたペンライトを龍祐が受け取り、中心を照らす。
そこにいたのは金魚バチのような白いヘルメットを被り、薄い緑色の全身タイツを着、背中にブリキのおもちゃのようなねじ回しのついた、通称”ロボロボ団”と呼ばれていたもの。
龍祐「ロボロボ団…?でも幹部が散りじりになって壊滅したはずじゃ…」
ロボ「いたいロボ!…げ、月島 龍祐!」
慌ててメダロッチがあるであろうところに手をかける。
龍祐「違う!僕は神龍 龍祐だ!」
龍祐も同じようにメダロッチに手をかける。
ぐっ、と肘を曲げメダロッチを口と同じ高さまで持ってくる。
龍祐「ライトニング、転送!」
いちいちリオンのように形式番号を叫ばなくても、転送と言えば来るのである。
龍祐の前に、光が広がり、また集縮する。
その場所に立つ、蒼いヘラクレスオオカブト、”ライトニング”。
瞳の緑の光りが闇に流れ、溶け込んでいく。
ライト「まぁた暗い中か。相手は…」
相手の姿を確認しようとするが、暗闇でよくわからない。
ロボ「いくロボォ!」
ライトニングが地面を蹴り、左に飛ぶ。
さっきまでいた所を黒い何かが飛んでいく。
龍祐「走りながらアペンディスターチャージ!ショットライフルで牽制!」
ライト「おう!」
左に走りながら、ショットライフルで牽制。レーザーの青い光りで相手の姿が一時的に映し出される。
オレンジ色のボディに1輪車のような脚部。
しかし、教室というのは狭いものですぐに壁に到達する。
龍祐「三角とび!」
ライト「重い身体なのに…無茶言うなぁ…。」
地を蹴り、黒板に足をつけ膝を大きく曲げる、ブースターを吹かして膝を伸ばし、跳ぶ。瞳の緑の光りが、闇に流れる。
龍祐「下、角度21度!」
ライト「いっけ―――!アペンディスター!」
角の間で、パチパチとスパークが起こる。胸部のレンズが光り、ビームが放たれる。
教室に光が広がる。
闇を切り裂き、相手に向かって光りが伸びる。
ビームの光りで、相手に命中したのがよくわかる。
教室中の光りが消え、またもとの闇に戻る。
ロボ「ロボォ!?…やっぱりもうだめロボォ!」
倒れたメダロットのメダルを拾い、どこかへ逃げていく。
龍祐「ライトニング、ご苦労様。」
ライト「楽勝楽勝。」
光りとなり、またメダロッチの中に戻る。
龍祐「…あ、顔大丈夫ですか?」
すっかり忘れていた感じである。
友「大丈夫。いくわよ、龍祐君。」
また階段の方に歩き出す友。
そのあとを追いかけようとするが一旦立ち止まり、後ろを見る。
龍祐「…やっぱり残党かな。もうだめだって言ってたし。」
そう呟き、また友のあとを追いかけていく。
―翌日、放課後メダロット部部室―
ハヤト「電池は見つかったか?」
眼の下にクマが出来ている。どうやら寝てないらしい。
リオンS「あきらめたらどうなんだ?」
呆れながらハヤトに言う。
ハヤト「俺の…電池…。」
がっくりと項垂れる…いや、寝てしまったようである。
エクス『昨日から寝てないらしいからな…。』
メダロッチの中から。
ふと、こんこんと、部室のドアを叩く音がする。
一番ドアの近くにいた龍祐が出る。
ドアが勝手に開き、その前に立っていた龍祐が潰される。
「龍祐君いる?」
開けたのは、友。綾乃 友。
流が無言で扉を指差す。
恐る恐る友が扉を引いてみるとそこには龍祐が。
龍祐「僕悪いことしましたか…?」
多少涙声。
友「電池あったわよ。はい。」
龍祐の声を無視して、電池を龍祐の手に握らせる。
龍祐「どうもです…。」
顔を押さえながらお礼を返す。
だがそれよりも早く友は部屋から出ていってしまう。
リオンS「ある意味凄い人だな…。」
ぼそりと呟く。龍祐がふらふらとハヤトの方に歩いていく。
龍祐「電池見つかりましたよ…。」
今だ顔を押さえている。ハヤトに反応がないので胸ポケットに押し込む。
ハヤト「びっくりするほどユートピア!?」
突然謎の言葉を発し、椅子を倒して立ちあがる。
ハヤト「あ、電池…」
胸ポケットから龍祐のいれた電池を取り出す。よく見なれた、それ。
ハヤト「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
大声を上げる。その声は校舎内にも届いたとか届かなかったとか。
そうそう。あのあと僕達がロボトルのあとやらニセポルターガイスト現象の後始末をしなかったせいで、それはそれは話題になりました。
写真部が噂を大きく書いたことにより噂の火種は大きくなりました。
…お約束というかなんというか、そんな感じです。
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