ハヤト「(結局、メダロット部は甲子園に出れるようになったのはいいけど、このしばらくの間っていうのはなぁ。)」

ぼんやりと窓の外を眺める。校庭では、一年生が体育の授業を受けている。


白きクワガタの伝説  メモリー15  もう一つの決着


授業も終わり、下校時刻。普段なら部活に出るはずの彼は、人のほとんどいない、海のそばの廃倉庫に来ていた。

「なんの用だ。」

額にゴーグルをかけた少年、神龍リオンが倉庫のほぼ真ん中に立つ、こちらに背を向けた少年に言う。

「あなたに勝たねば、私は組織を追い出されてしまう。組織は敗者を必要としないからね。」

こちらを向く少年。不健康そうな白い顔、一回見れば忘れないような特徴的な服の少年。

クルオス。

リオンS「そんな事だろうと思った。」

ポケットに入れていた左手を出す。腕にメダロッチはない。

その代わりに手に握られた黒いメダル。指に弾かれ、中に舞う。

リオンS「ヴァルレル!」

メダルを光が包む。

リオンのゴーグルが消える。

その代わりに現れた悪魔。…ヴァルレル。

クルオス「ヴィオス!」

メダロッチから撃ち出された光球が、龍騎士を形作る。

ヴィオス「負けない…主の為にも負けられない!」

バイザー越しにヴァルレルを睨む。が、当の本人は気にしてもいない。

ヴァル「たしか負けたら追い出される上にアレだっけ。大変だな。」

へへへと馬鹿にしたように笑う。

ヴィオス「なにがおかしい!」

ヴァル「いや…なんで倒せもしない相手に向かってくるかなぁってね。」

クルオス「ええい、いきますよ!」

少年の背中に、サソリの痣が浮かび上がる。

リオンS「…ならば俺も神龍リオンとしてではなく、ヨハネスとして貴様の挑戦を受けよう。」

ヨハネスの背中の痣が、青い炎となる。

ヨ&ク『オーバードライブシンクロ!』

オーバードライブシンクロ。

メダロットとそのマスターが一体になることを指す。

彼らの場合は訓練によって得た技能で無理やりシンクロするもの。そのためメダロットが受けたダメージはマスターにも反映される。その上機体自体にも負担がかかる。

しかし、指示までのタイムロスをなくすのと機体の性能アップができる。諸刃の剣。

ヨハネス「ヴァルレル!」

翼を大きく翻し、宙に舞う。

槍を片手に持ち、ヴィオス目掛けて急降下。

すれ違いざまに槍を振る。それを盾で受けとめる。

ヴィオス「くっ…」

盾が欠ける。力の違いは歴然である。

しかし、休む間もなく次の一撃が入る。右腕に持った槍でそれを防ぐ。

ヴァルレル「ほらほら、どうしたぁ?」

そのまま力を入れ、ヴィオスの槍をはじき飛ばす。

ヴァルレル「早く取って来い。」

構えを解き、槍を下ろす。

ヴィオス「何のつもりだ。」

ヴァルレル「気まぐれってことッスよ〜早く取って来い。」

馬鹿にしたように目を細める。

口惜しそうに槍を取りにいくヴィオス。

ヴィオス「…来いっ!」

槍を拾い、再び構えるヴィオス。

ヴァルレル「…本気で行くぜ!」

高速接近、突きを繰り出す。それを盾で防ぐ。更にヒビが大きくなる盾。

続けて蹴りが入る。顔面に決まり、よろけるヴィオス。

更に拳を繰り出す。同じように左の頬に決まる。

追い討ちでサマーソルト。宙に蹴り上げられる。

ドシャ、と音を立てて、仰向けにコンクリートの地面にぶつかる。

ヴィオス「くそ…」

立ちあがろうとするが、顔に槍を突きつけられる。

ヴァルレル「これ以上やるとお前のマスターしんじゃうんじゃねーの?」

完全に動きを止められるヴィオス。

ヴィオス「止めをさせ!」

ヴァルレル「やなこった。」

槍を引き、ヴィオスに背中をむける。シンクロを解くヨハネス。

ヴィオス「…くそっ!」

シンクロを解き、口惜しそうにコンクリートを叩く。

光になり、ゴーグルに戻るヴァルレル。

ヨハネス「…分かったか?お前らじゃ俺には勝てないってことが。」

地面に落ちたゴーグルとメダルを拾いゴーグルをつけ直し、メダルをポケットに入れる。

クルオス「ぐ…」

ヨハネス「組織からも追われる身になって、更には俺にも勝てないってか。情けねえな。」

微笑し、クルオスのほうを向く。

ヨハネス「そこでいいところを教えてやる。花園3中、ここなら寮も借りられる。」

クルオス「ふ…ふざけるな!何故貴様に身の心配をされなければいかん!」

ヨハネス「じゃあ…ここで俺に殺されて死ぬか?」

冷たい、瞳。

背筋に悪寒が走る。

怖い。素直にそう感じた。

先程までの、瞳とは違う。

ヨハネス「なんてな…」

微笑し、瞳を閉じる。

次に開けた時には先ほどのような威圧感はなく、普通の瞳。

ヨハネス「好きにしろ。…俺はもう帰るぞ。」

静かに去っていく後ろ姿。

かつては尊敬し、憧れだった。

静かに、記憶に彼が去った時が蘇った。

 

 

ヨハネス「…俺は、組織を抜ける。」

十分豪勢な部屋。強いものには、それ相応の部屋が与えられる。

クルオス「どうしてですかッ!あなたは組織でもNo.1のメダロッターなのに!」

声を荒げて言い寄る。全く聞く耳を持たないヨハネス。

クルオス「…僕、あなたを尊敬してたのに…。」

ヨハネス「…覚えとけ。俺が組織を抜けるのは”自由”が欲しいからだ。それに、こんな事をしている組織にはもう飽きた。」

CD−Rを見せる。見せるだけ見せて、バックにしまい込む。

クルオス「自由?」

ヨハネス「そうだ。自由だ。」

荷造りを終え、バックを肩にかける。

そのまま部屋を出ていく。

彼の頬に、冷たいものが伝った。涙。

…尊敬する者を失った悲しみ。

 

 

クルオス「自由…か。」

今思えば、様々のものに束縛されてきた。

組織。

意地。

強さの執念。

ヨハネスには、そんなものが消えたように見えた。

今を楽しんでいる。そんな風に。

ヴィオス「マスター…」

そばに立つメダロット。自分の、信頼するもの。

クルオス「私は…いや、僕は組織を抜ける。あの人の言う、自由というものが見たくなった。…ついてきてくれるか?」

背伸びを止め、現実を見据える。

そのマスターの姿が、とても誇らしく見えた。

ヴィオス「…はい。私は…貴方のメダロットですから。」

笑顔で答える。

クルオス「ありがとう。…もう組織から抜けた。組織から貰った名前や機体ではなく、本当の名前を付けて、身体を買わなきゃな。」

ヴィオス「はい…」

彼女が人間なら、泣いていたであろう。

悲しくて泣くのではない。嬉しくて泣くのだ。

 

 

…数日後、レッドスコーピオンの兵が廃倉庫で発見したのは、ヴィオスのボディとメダロッチ、そしてクルオスの書置きであった。

 

 

―神龍家―

龍祐「あ、おかえり。」

台所からひょっこり顔を出す、龍祐。

リオンS「ああ。…少し疲れたな。」

自分の部屋に入っていく。

今日はバイトが休みのリオンも、その部屋に追ってはいる。

 

リオンS「…何のようだ?」

ベットに、仰向けになり、倒れこむ。

リオン「大丈夫か?オーバードライブシンクロは身体への負担が大きいからな。」

扉をしっかり閉め、外に声が漏れないようにする。

リオンS「…わかってる。しかし、使わなければ勝てない相手だからな。」

リオン「シンクロを使うだけヴァルレルの寿命は縮まる。無茶はするな。」

リオンS「…ああ。そういえば今日だったか。あんたと、初めて出会ったのは。」

思い出すかのように軽く目を細める、リオンS。

リオン「そうだったか。…随分と懐かしい話だな。」

リオンS「覚えてなければそれでいい。…疲れた。しばらく眠らせてくれ。メシは起きたら食べる。」

わかったと言い、部屋を出ていくリオン。

リオン「そのまま永遠の眠りへ。なんてことになるなよ。」

出て行き様に、冗談交じりで言い放った。

それを鼻で笑い、静かに瞳を閉じるリオンS。

 

 

―それぞれの話しが完結していく。

伝説は、それでも続いていく。


次回予告

ハヤト「え〜っと、次の話しはなんだ?」

エクス「あ〜、なんだったっけか。…ああ、次は龍祐か。」

龍祐「はいはい、次は僕の話ですか。次回、白きクワガタの伝説『貴方のお約束はなんですか?』です!」

流「俺は金タライ!」

エ&ハ「コント!?」