ハヤト「(結局、メダロット部は甲子園に出れるようになったのはいいけど、このしばらくの間っていうのはなぁ。)」
ぼんやりと窓の外を眺める。校庭では、一年生が体育の授業を受けている。
授業も終わり、下校時刻。普段なら部活に出るはずの彼は、人のほとんどいない、海のそばの廃倉庫に来ていた。
「なんの用だ。」
額にゴーグルをかけた少年、神龍リオンが倉庫のほぼ真ん中に立つ、こちらに背を向けた少年に言う。
「あなたに勝たねば、私は組織を追い出されてしまう。組織は敗者を必要としないからね。」
こちらを向く少年。不健康そうな白い顔、一回見れば忘れないような特徴的な服の少年。
クルオス。
リオンS「そんな事だろうと思った。」
ポケットに入れていた左手を出す。腕にメダロッチはない。
その代わりに手に握られた黒いメダル。指に弾かれ、中に舞う。
リオンS「ヴァルレル!」
メダルを光が包む。
リオンのゴーグルが消える。
その代わりに現れた悪魔。…ヴァルレル。
クルオス「ヴィオス!」
メダロッチから撃ち出された光球が、龍騎士を形作る。
ヴィオス「負けない…主の為にも負けられない!」
バイザー越しにヴァルレルを睨む。が、当の本人は気にしてもいない。
ヴァル「たしか負けたら追い出される上にアレだっけ。大変だな。」
へへへと馬鹿にしたように笑う。
ヴィオス「なにがおかしい!」
ヴァル「いや…なんで倒せもしない相手に向かってくるかなぁってね。」
クルオス「ええい、いきますよ!」
少年の背中に、サソリの痣が浮かび上がる。
リオンS「…ならば俺も神龍リオンとしてではなく、ヨハネスとして貴様の挑戦を受けよう。」
ヨハネスの背中の痣が、青い炎となる。
ヨ&ク『オーバードライブシンクロ!』
オーバードライブシンクロ。
メダロットとそのマスターが一体になることを指す。
彼らの場合は訓練によって得た技能で無理やりシンクロするもの。そのためメダロットが受けたダメージはマスターにも反映される。その上機体自体にも負担がかかる。
しかし、指示までのタイムロスをなくすのと機体の性能アップができる。諸刃の剣。
ヨハネス「ヴァルレル!」
翼を大きく翻し、宙に舞う。
槍を片手に持ち、ヴィオス目掛けて急降下。
すれ違いざまに槍を振る。それを盾で受けとめる。
ヴィオス「くっ…」
盾が欠ける。力の違いは歴然である。
しかし、休む間もなく次の一撃が入る。右腕に持った槍でそれを防ぐ。
ヴァルレル「ほらほら、どうしたぁ?」
そのまま力を入れ、ヴィオスの槍をはじき飛ばす。
ヴァルレル「早く取って来い。」
構えを解き、槍を下ろす。
ヴィオス「何のつもりだ。」
ヴァルレル「気まぐれってことッスよ〜早く取って来い。」
馬鹿にしたように目を細める。
口惜しそうに槍を取りにいくヴィオス。
ヴィオス「…来いっ!」
槍を拾い、再び構えるヴィオス。
ヴァルレル「…本気で行くぜ!」
高速接近、突きを繰り出す。それを盾で防ぐ。更にヒビが大きくなる盾。
続けて蹴りが入る。顔面に決まり、よろけるヴィオス。
更に拳を繰り出す。同じように左の頬に決まる。
追い討ちでサマーソルト。宙に蹴り上げられる。
ドシャ、と音を立てて、仰向けにコンクリートの地面にぶつかる。
ヴィオス「くそ…」
立ちあがろうとするが、顔に槍を突きつけられる。
ヴァルレル「これ以上やるとお前のマスターしんじゃうんじゃねーの?」
完全に動きを止められるヴィオス。
ヴィオス「止めをさせ!」
ヴァルレル「やなこった。」
槍を引き、ヴィオスに背中をむける。シンクロを解くヨハネス。
ヴィオス「…くそっ!」
シンクロを解き、口惜しそうにコンクリートを叩く。
光になり、ゴーグルに戻るヴァルレル。
ヨハネス「…分かったか?お前らじゃ俺には勝てないってことが。」
地面に落ちたゴーグルとメダルを拾いゴーグルをつけ直し、メダルをポケットに入れる。
クルオス「ぐ…」
ヨハネス「組織からも追われる身になって、更には俺にも勝てないってか。情けねえな。」
微笑し、クルオスのほうを向く。
ヨハネス「そこでいいところを教えてやる。花園3中、ここなら寮も借りられる。」
クルオス「ふ…ふざけるな!何故貴様に身の心配をされなければいかん!」
ヨハネス「じゃあ…ここで俺に殺されて死ぬか?」
冷たい、瞳。
背筋に悪寒が走る。
怖い。素直にそう感じた。
先程までの、瞳とは違う。
ヨハネス「なんてな…」
微笑し、瞳を閉じる。
次に開けた時には先ほどのような威圧感はなく、普通の瞳。
ヨハネス「好きにしろ。…俺はもう帰るぞ。」
静かに去っていく後ろ姿。
かつては尊敬し、憧れだった。
静かに、記憶に彼が去った時が蘇った。
ヨハネス「…俺は、組織を抜ける。」
十分豪勢な部屋。強いものには、それ相応の部屋が与えられる。
クルオス「どうしてですかッ!あなたは組織でもNo.1のメダロッターなのに!」
声を荒げて言い寄る。全く聞く耳を持たないヨハネス。
クルオス「…僕、あなたを尊敬してたのに…。」
ヨハネス「…覚えとけ。俺が組織を抜けるのは”自由”が欲しいからだ。それに、こんな事をしている組織にはもう飽きた。」
CD−Rを見せる。見せるだけ見せて、バックにしまい込む。
クルオス「自由?」
ヨハネス「そうだ。自由だ。」
荷造りを終え、バックを肩にかける。
そのまま部屋を出ていく。
彼の頬に、冷たいものが伝った。涙。
…尊敬する者を失った悲しみ。
クルオス「自由…か。」
今思えば、様々のものに束縛されてきた。
組織。
意地。
強さの執念。
ヨハネスには、そんなものが消えたように見えた。
今を楽しんでいる。そんな風に。
ヴィオス「マスター…」
そばに立つメダロット。自分の、信頼するもの。
クルオス「私は…いや、僕は組織を抜ける。あの人の言う、自由というものが見たくなった。…ついてきてくれるか?」
背伸びを止め、現実を見据える。
そのマスターの姿が、とても誇らしく見えた。
ヴィオス「…はい。私は…貴方のメダロットですから。」
笑顔で答える。
クルオス「ありがとう。…もう組織から抜けた。組織から貰った名前や機体ではなく、本当の名前を付けて、身体を買わなきゃな。」
ヴィオス「はい…」
彼女が人間なら、泣いていたであろう。
悲しくて泣くのではない。嬉しくて泣くのだ。
…数日後、レッドスコーピオンの兵が廃倉庫で発見したのは、ヴィオスのボディとメダロッチ、そしてクルオスの書置きであった。
―神龍家―
龍祐「あ、おかえり。」
台所からひょっこり顔を出す、龍祐。
リオンS「ああ。…少し疲れたな。」
自分の部屋に入っていく。
今日はバイトが休みのリオンも、その部屋に追ってはいる。
リオンS「…何のようだ?」
ベットに、仰向けになり、倒れこむ。
リオン「大丈夫か?オーバードライブシンクロは身体への負担が大きいからな。」
扉をしっかり閉め、外に声が漏れないようにする。
リオンS「…わかってる。しかし、使わなければ勝てない相手だからな。」
リオン「シンクロを使うだけヴァルレルの寿命は縮まる。無茶はするな。」
リオンS「…ああ。そういえば今日だったか。あんたと、初めて出会ったのは。」
思い出すかのように軽く目を細める、リオンS。
リオン「そうだったか。…随分と懐かしい話だな。」
リオンS「覚えてなければそれでいい。…疲れた。しばらく眠らせてくれ。メシは起きたら食べる。」
わかったと言い、部屋を出ていくリオン。
リオン「そのまま永遠の眠りへ。なんてことになるなよ。」
出て行き様に、冗談交じりで言い放った。
それを鼻で笑い、静かに瞳を閉じるリオンS。
―それぞれの話しが完結していく。
伝説は、それでも続いていく。
ハヤト「え〜っと、次の話しはなんだ?」
エクス「あ〜、なんだったっけか。…ああ、次は龍祐か。」
龍祐「はいはい、次は僕の話ですか。次回、白きクワガタの伝説『貴方のお約束はなんですか?』です!」
流「俺は金タライ!」
エ&ハ「コント!?」