真夜中の路地裏。ここで数名の男達が鬼ごっこをしていた。
「いたぞーっ!」
「追え!」
警備員らしき男が数名、一人の男を追っていた。
闇夜の細い路地を影が軽快に駆け抜けていく。
その後ろを警備員が追う。
「…しつこいなぁ…メダロット、転送。」
メダロッチを構え、目の前に転送。
その横を影が抜けていく。
転送されたメダロットのシルエットはビルの影によって分からない。
ただ、真紅の光だけが浮かび上がっている。
それを無視し警備員が追いかけようとする。
メダロット三原則を理解しているからだ。
その一つにメダロットは故意に人を攻撃してはならないというのがある。
しかし…
警備員たちはそのメダロットの横を通りすぎて二、三歩歩いたところで皆揃って倒れた。
転送されたメダロットによって。
「オッケー、リュー。」
メダロットに言う。返事代わりに軽く右腕を上げた。
影は三角飛びでビルの間を上っていき、頂上までついたらそこに腰をかけ、夜風に当たりながら3200円の夜景を背景に奪ってきた獲物を取り出した。
「この子のマスターになるのは誰かな?」
まだ幼虫の姿の、コアの半分だけのクワガタメダルを。
時は2167年、4月。
今日は花園第三中学校の始業式の日。
始めての物を見るようにきょろきょろと辺りを見回しながら校舎の前を見なれない学生が他の学生に紛れて歩いていた。
鶏の鶏冠のように立った黒い髪。細く開かれた黒い目。シャープな顔立ち。
お目当てのクラス配分表の前まで到達すると、人ごみを掻き分けてその紙をまじまじと見つめて自分の名を探す。
少年「…俺のクラスは…」
そう呟くと、ようやく自分の名前が見つかった。
どこか見ようとしたとき両サイドから何やら人が現われる。
ちょっとどっきり。
少年A「あー…っと、僕のクラスは2−3か…」
左から頭だけ出してクラス表を一通り見まわしただけで理解した。
早いなぁと鶏頭の中でぼやく。顔は良く見えなかったが長い、黒い髪だけが見えた。
少年B「俺は…っと…2−3だぁ!」
続けて右側から頭を覗かせていた少年が叫ぶ。
自分のクラスを確認すると首を引っ込めて去って行った。
少年「っと、とりあえず…2−3だ。」
ようやく確認できた。
先ほどの二人と同じクラスになった。これが彼にとって幸運になることはまだ先である。
やっぱり省略
先生「…というわけで、入りたい部活をこの中からえらんで、明後日まで提出してくださぁい。」
金髪の歳は22〜24ぐらいの若い女の先生が彼の担任だ。
名を或波 零と言ったか。
先生「あ!すっかり忘れてた。今日からうちの学校にに通うことになった…えっと…」
一人の少年が立ちあがる。先ほどの鶏頭。
少年「…鍬利 勇人(くわり はやと)です。先生、メダロット部はないんですか?」
メダロット部に入りたいようだ。しかし、彼の左腕にはメダロッチはない。当たり前だが右腕にも無い。
先生「そうねぇ…ないみたいだから自分で作ったらどうかしら?」
そう返事が返ると同時に
ハヤト「部として成り立つ条件は?」
その細い目をさらに細め、問いただす。
先生「部員を自分を含めて4人以上。そして1年以内に何らかの活躍をする。だったはずよ」
ハヤト「わかりました。」
それだけ返すと再び席につく。
また省略。めんどくさいんだもんよ
ハヤト「…やっぱり部長ならメダロットは欲しいところだな。」
その言葉にはなにかが含まれていて寂しさが滲み出ていた。
彼自体はそれを理解していたが…
視界の先に、コンビニがある
ハヤト「ポップマート…」
その店の名を呟いた。
ウイーン
自動ドアの開く音。
店員「いらっしゃいませ。」
ぶっきらぼうに挨拶をする、髪は少々長目の男の店員。
レジに置かれた椅子にふんぞり返って雑誌を読んでいる。
ハヤト「メダロットを売ってくれ。」
それをいきなり店員に告げる。
あまりにもストレート過ぎるが気にしないでいただきたい。
それを聞いて読んでいた雑誌を仕舞い、顔を上げる。
黒い髪の奥から大人びた釣り目気味のその瞳が見える。
店員「そんなおおざっぱに言うな。どんな型が欲しいんだ?」
ハヤト「そうだな…クワガタ。」
多少メダロットの知識はある。
数年前までは持っていたから。
しかし、ブランクが大きくあまり明確に思い出せない。
店員「KWGね…あ、今日新製品が入ったんだ!」
うれしそうな含み笑いを残すと店の中にはいっていく。
ガサゴソガサゴソ
紙袋を漁るような音がする。
少しだけ不安になった。
店員「…あった!これだこれ!」
歓喜の声をあげながらレジに戻ってくる。
黒い髪に何やら灰色の埃がついている。蜘蛛の巣とかも。
長年使われてないものを取り出してきたみたいに。
店員「はいKWG。」
白いボディに青が冴える。天に向かって伸びる二本の角はクワガタの顎を模している。
体に入る白と灰色の境目は埃をたった今払ったような感じだ。って言うか組立て済み。
ハヤト「…それ、使えるんですか?」
多分、と店員が返す。
だんだん不安になってきたが一度出してもらったものをいらないと言っては失礼だと思い、購入を決意する。
ハヤト「まあいいや。このメダロッチをくれ。」
レジのすぐ横に在ったパッケージに入った黒の本体に青いベルトのメダロッチをだす。
3ヶ月ほど前に発売されたメダロット社公式モデル。
店員「ん。えっと…メダロッチが3500。税込みだから合計で3500円ね。」
ハヤト「そいつの代金は?」
財布の中から取り出したお金を渡しながら言う。
店員「あ、いいの、いいの。心配するな。」
その代わりメンテナンスは自分でやれよと付け足す。
店員「4000円でおつりが500円。あとメダルはプレゼント。」
500円玉と一緒にエプロンのポケットの中にあったメダルを一枚取り出す。
ハヤト「いいんですか?」
怪しい人を見るかのような目で店員を睨む。
苦笑いしながら
店員「ああ。一つでも多くのメダルをメダロッターに渡すのが俺の仕…」
はっ!っと言った感じであわてて口をふさぐ。
その後左右を見て誰もいないのを確認してから
店員「ま、まあ、大切にしてやってくれ。」
そうハヤトの肩を叩きながらいった。
ハヤト「おう!まかしとけ!!」
クワガタとメダロッチの入った紙袋を受け取り、走って出て行く。
出る途中で額にゴーグルをつけた少年にぶつかったが
ハヤト「わり!」
謝るのをそこそこに飛び出していく。
ゴーグル野郎「気にするな。」
そう返したが果たして聞こえてるかどうかは定かではない。
店員「お、きたな。ちびリオン。」
店員が待ち人来ると入った感じでその少年を呼んだ。
リオンS「うるさい。ちびと言うな。」
帰り道
貰ったメダルを見ながらあれこれ考えていた。
ハヤト「さて…なんにするかな…」
彼の目の前を羽根が通っていく。気がつけば空の色が真っ黒になっている。
ハヤト「ウイング…ハクリじゃん」
空が鳴ったかと思い天を見上げると、青白い雷鳴が真横の電柱を射抜く。
しばらくなにかを考えたあと
ハヤト「ライトニング…またパクリだ…」
危機感が根本的に薄いようだ。
雷鳴のおかげである一軒家が火事になっている。
ハヤト「ファイア…なんでパクリネタしか…」
そんなこんなで家に着く。
街は消防車やらなんやらが走り回りやたら騒がしかったが全く気にも留めていなかった
ハヤト「さて…どうしたものか?」
靴を脱ぎながら、名前をずっと考えていた。
母「ハヤト、部屋の片付けやっちゃわなさいよ!」
自分の部屋を整理しているのであろう母の声が響く。
ハヤト「ん。」
廊下を少し歩きトイレのドアの前にある階段を上り二階に上って行く。
物置代わりになるであろう部屋を通り過ぎて一番奥の部屋に入る。
ハヤト「さて、かたずけやっちゃうか。」
部屋の中には自分の私物や服が入ったダンボールがいくらか積まれている。
しばらくにらめっこしていた1枚のメダルを昨日父と運び入れた机の上に置く。
それからしばらくダンボールの中身を適所においていき、自分の私物を棚にはこびれようとした時
ハヤト「これがこっちに……あ。」
床に落ちた1枚の写真。
そこにはハヤトとLHB型メダロット。
始めて勝った時の、両者が嬉しそうに腕を上げている写真だった。
少しの間それを見て、ダンボールの処理を一段落つけてから紙袋の中身を取り出した。
先ほど置いた工具も一緒に取り出して。
数十分後
埃が完全に払われ、駆動系も全てチェックの終えた純白のクワガタが俯いて座っていた。
ハヤト「出来た…これで大丈夫のハズだ…」
机の上のメダルを取ってくる。
そこでようやく、そのメダルのコアが半分だけになってることに気付いた。
しかし疑問に思わず、そのメダルを、クワガタの背に嵌め込む。
ヴゥゥゥゥゥン。
起動音と共にメダロットの瞳に光が宿る。
その真紅の瞳を何度かぱちくりさせたあと、思いっきり背伸びしてから
KWG「誰だお前?」
ハヤトを見ていった。
ハヤト「…いきなりお前とは無礼な野郎だな。」
とはいえ、ちゃんと起動したのでちょっと嬉しかったりもする。
KWG「うるさい。」
自分の態度の悪さを突かれているのに耳を貸そうとしない。
ふう、と息をついてから諭すようにそのメダロットに言う。
ハヤト「俺がお前のマスター、鍬利 ハヤト。」
少しだけ胸を張ってみた。
しかしメダロットのほうはそれがどうしたといった感じである。
KWG「鍬利?変な名前。」
そもそもこいつが普通の日本人の名を知ってるとは思えないが。
ハヤト「うるさい!お前の名前は…」
そこで少し止まった。
名前を考えていなかった。
いや、正確には考えてはいたがその名前でいいのかといった考えが押し寄せてきたのだ。
もう少し止まったあと、その名にする事にした。
ハヤト「…”エクスカリバー”だ」
聖剣の意味の名。
その由来は…ここではあまり語らないようにしておこう。
エクス「ん。わかった。」
気に入ってくれたようだ。
その光景を彼は前に一度見ている。
…まだ自分が小さく、守るべき力が無かった頃。
ハヤト「エクス…」
その名を呼ぶことはもう無いと思っていた。
しかし、今時分の目の前にいるのは”エクスカリバー”という名を持つメダロット。
エクス「なんだ?」
疑問の眼差しをハヤトに向ける。
なんだか目が合わせられなくて、視線をそらしながら言う。
ハヤト「いや…明日から部員集めをするんだが手伝ってくれ。」
エクス「部員って?」
状況を理解していないのでなんのことやらさっぱりといった様子。
ハヤト「メダロット部の部員を集めるんだよ」
今日のやり取りを30秒にまとめてエクスに理解できるように話す。
エクス「ふぅ〜ん、がんばれよ。」
その結果の答えがこれ。
ハヤト「お前も手伝うんだよ!」
鋭くツッコミ。
エクス「めんどくせぇなぁ。」
…この野郎…
目の前に居るメダロットにちょっとだけ殺意が芽生えた。
ハヤト「そんな消極的になるな」
エクス「もういい、次回いこ」
視線をあさってのほうに向け爽やかに聞き流す。
ハヤト「だぁ――――――――――流すなぁぁぁぁ!!」
次回予告
ハヤト「次回「白きクワガタの伝説」『誕生、メダロット部』にロボトルファイト。」
エクス「おい、前フリなしかよ!」
ミニミニライブラリー
KWG−09−LA ソードシザース
メダル:リバースクワガタ
名称:エクスカリバー
マスター;鍬利 勇人
パーツ名称、能力
ティンペット:通常ティンペット
KWG−91−LA シザーズトラップ(対射撃トラップ 設置)
KWG−92−LA オウギー(ソード攻撃 殴る)
KWG−93−LA ビームブレード(格闘ビーム攻撃 がむしゃら)
KWG−94−LA ウィンドフラッガー