ロボロボ団本部の白い通路を、二人の女性が歩いている。後ろについていってるほうは前を歩いているのより背が低く、妹といった感じである。

「ベベルさぁん、どうして俺がこんなカッコしなけりゃならんのですかぁ?」

声は男だが、完全に外見は女である。銀色の長い髪を持ち、釣り目気味の目、女性としての体格はまあまあで薄い緑色の服に身を包んでいる。更に首元にはふろしき包みを掛けている。

ベベル「文句言わないの。」

後ろを歩いている方が項垂れ、その後をとぼとぼとついていく。

時刻は現在3時53分。真夜中で夜番のロボロボ団程度しかいない。


翼のメダロット  第14話  後悔はしたくないから


ベベル「作戦発動まであと7分よ。地図は持ってるわね。」

メダロッチで時刻を確認し後ろを歩いている少女の方を向く。

「持ってますよ。」

ふろしき包みからちょっとだけ頭を出しているパンフレットを親指で指さす。

ベベル「じゃあ、そのまま中枢まで突っ切るのよ。レイブンと戦えるのはあなたぐらいしかうちの軍にはいないんだから。」

少女の肩を叩き、角を曲がってどこかへ走っていってしまう。

「来るべきときが来た。って感じだな。」

地図を風呂敷から引っ張り出し、現在位置を確認する。

「さて…行くか。」

地図を見ながら、赤い丸が書かれた場所を目指し進んでいく。

 

 

―午前4時00分、作戦開始―

リウ「さ、いくよ!」

ロボロボ団本部ビルに、衝撃が走る。3階の壁に大きな穴が開き、何かが高速で飛び込んでくる。

「な、何が起こったロボ!?」

その音に眠っていたロボロボ団員も飛び起き、慌てていつもの全身タイツに着替え始める。

リウ「リオン君の援護をする!急いで行くよ!」

テムジン「了解!」

”風の翼”と呼ばれるメダロットが乗り物になってくれるという便利な物に乗り、通路を高速で駆けぬけていく。

メダロッチを開き、現在のリオンの位置を確認。現在位置からは結構遠い。しかも見当違いの方向に向かっている。

ふと、前に目をやればロボロボ団員(一般兵)が立ち塞がっている。

フッと微笑し、テムジンから飛び降りる。

上手くバランスをとって着地し、メダロッチを構え、叫ぶ。

リウ「テムジン、パーツ転送!」

風の翼に身を包んでいたテムジンが光に包まれ、やがてその身は、白い、KBTとKWGを混ぜたようなデザインの姿になる。

テムジン「いっくぜぇ―――!」

左腕の甲の装甲が持ちあがり、中から白い棒が伸びる。

それを握り、抜き放つ。

鞘から放たれた瞬間、ピンクの閃光が伸び剣を形作る。

まずは一番手前に転送されたサンリーンを横切りで一刀両断。

頭部の索敵で敵の数を確認。サンリーンが5体。それ以外は無い。

一斉に重力攻撃が放たれる。それを右に飛び回避、壁を蹴って三角飛びをし、更に天井に足をつける。

テムジン「これで二つ!」

天井を蹴り、高速落下。その勢いを乗せて真下にいたサンリーンを縦に真っ二つに割る。

リウ「どうしたの!もっとちゃんと指示しないと!」

調子に乗ってきたのか、ロボロボ団員に文句をつけ始める。

ロボロボ団員もちゃんと指示を出しているのだが、テムジンの動きについてこれず一機、また一機と倒されていく。

テムジン「これでフィニッシュ!」

最後のサンリーンを蹴り飛ばし、壁に叩きつける。

テムジンの横をリウが駆けぬけていく。

リウ「ほら、行くよ!」

テムジン「おうさぁ!」

ビームサーベルを戻し、リウのあとを追いかけていく。

その場には壊されたサンリーンと棒立ちになったロボロボ団員しか残されていない。

 

 

 

―4時7分、4階通路―

リオン「くそ…今どこだよ…」

ぽりぽりと頭を掻くが鬘の上からなのでイマイチ効果が薄い。

地図を見ながらうろうろとしているリオンの前に、誰もいないのにメダロットが数体、どこからか転送される。

リオン「チッ…ばれちゃあしょうがねぇ。リュー、ウイング、転送!」

リオンの前に2体、メダロットが転送される。

右はKBT−XX−WA バンガードビートル ”ブレードウイング”。

左はKWG−XX−WA ウイニングシザーズ ”リュー”。

どっちも、世界でたった一つしか無いメダロット。

対する敵はサンリーン5体。全く持って芸が無い。

ウイング「そんじゃま、行きますか!」

リュー「そうだな。」

ウイングが両腕を前に突き出す。リューが両腕の武器を展開する。

ウイングの射撃の開始を合図にリューが地を蹴り、突っ込む。

まず一体、ウイングの射撃の前に地に伏せる。次にリューの横切り、そこにハンマーを打ち込まれ、機能停止。

リオン「一気に決めるぞ!ウイング、44マシンガン!」

ウイング「りょーかい!」

左腕を前に突き出し、銃撃。

回避行動をとるサンリーンであるがその先にも銃弾が飛ぶ。

やがてサンリーンの動きが止まり、崩れ落ちた。

ウイング「らっくしょー。」

両腕の武器をしまい、リオンの方を見る。

こくりと頷き、地図を広げまた歩き出した。

 

 

―4時11分、3階中央広場―

パレット「やぁっぱりこういう展開になるのね…」

目の前にはメダロットの山。なぜかメダロッターはいなく、ただただオレンジ色のサンリーンが群がっている。倒しても倒してもキリが無い。

レイヤー「そうね―。やっぱり占いの通りにしとけば良かったかな〜」

ファントムが盾で反射をし、目の前のメダロットをランスで薙ぎ払う。

パレット「占いなんて当てになんないって!フェイク、一番後ろに空間転移!トルース、近くのは全部アンタが!」

トルース「無茶言うなぁ!もう!」

トルースの横に浮いていたフェイクが、光に包まれて消える。

少しスペースが出来たので、多少動ける場所は確保できたが倒しても倒しても相変わらずキリがない。

 

 

 

―4時15分、4階廊下、移動中―

リオン「ちくしょう、また道に迷った!」

うろうろとそこらへんを歩きながら地図を睨みつける。

中央広場から上への階段を昇るルートが一番近いと判断したのだが、意外にも広くなかなか目的地にたどり着けないでいた。

ウイング「地図貸してみん?」

読んでいた地図から目を離し、横に出たウイングへと手渡しする。

ウイング「え〜っと…ここを真っ直ぐいって曲がればつくじゃないか!アホか!」

リオン「アホとか言うな!」

ウイングに言われた道を進んでいく。角を曲がり、少し行った先には芝生が広がっていた。

中央に木が一本生え、その下に少女が立っている。それを見て明らかに嫌そうな顔をするリオン。

「伝説の木の下で二人は…」

かなり電波な発言に更に嫌そうな顔をし、ウイングに尋ねる。

リオン「…別の道はないのか?」

ウイング「かなり遠い。」

そっけなく返す。

「ダーリン!そんな格好までして来てくれたのね!」

かなり嬉しそうに叫ぶ、少女。その言葉で今の服装を思い出すリオン。

リオン「どこでもいいから行くぞ。」

くるりと反転し、広場から出ようとしたとき、柵のようなものが上から降ってきて出口を塞ぐ。

リオン「!?」

何事かと思い、銀色の髪をなびかせて振りかえる。不適な笑みを浮かべながら項垂れる少女。

「私の方を向いてくれないのならいっそのこと…殺す!」

ウイング「怖ぇ…」

少女の少し前に、メダロットが転送される。

赤い、花を模したメダロット。

脚部のタイプは浮遊。名はローズブーケ。 

リオン「やらなきゃ、ダメか。」

左腕のメダロッチを構える。

それを見てウイングが後ろに下がり、リューが前に出る。

リオン「いっくぜ!ロボトルファイトォ!」

リオンの開戦の合図と共に、リューが地を蹴った。

 

 

 

―4時21分、2階廊下、住居ブロック―

寝起き状態の一般兵に次々と指示を送っていく。

ベベル「第一から第五部隊までは1階へ、他は全部2階の守りを固めて!敵は下から来てるわ!」

嘘の指示を送る。すべてのロボロボ団員が持ち場についたのを確認すると、待機命令を出し上の階へ向かっていった。

ベベル「上の二人は全然動きがないけどなんでだろ…」

メダロッチに表示される各員の位置を確認、リオン、パレット、レイヤーが数分前からずっと動きがない。リウは4階へもうすぐ到達しそうである。

ベベル「まずは近いの、かな。」

急ぐ足を、更に速めた。

 

 

―4時23分、本部近くのビル、屋上―

「うっへぇ…」

とあるビルの上から入り口のところにそろって並んでいるロボロボ団員を望遠鏡で見ながら呟いた。

「どうやっていくんだよ…」

望遠鏡を目から離し、横にいる少年に話しかける。

「まぁ焦るな。裏口から入れば良いだろ。」

先ほどまで開いていたノートパソコンを閉じ、背中のバックの中に押しこむ。

「…んじゃ、いきますかぁ!」

女の声が響き、それに三人の少年の声が答えた。

 

 

 

―4時31分、4階廊下、移動中―

リウ「やれやれ、年寄りに運動は控えさせてもらいたい物だよ…」

テムジン「まだ30幾つだろ…」

メダロッチで各員の位置を確認する。前に目をやれば、天井の丸い消火器のような物が赤い点の光を放った。

テムジンの数歩前に、サンリーンが転送される。

リウ「…なるほど…アレか。」

先ほどのものが転送装置だと理解し、指示を送る。

リウ「テムジン、上の丸い奴を斬れ!」

テムジン「おうさ!」

1歩前に踏み出し、一気にサンリーンまで飛ぶ。

サンリーンの頭を踏みつけ、丸い物体に向かって飛び、突きを繰り出す。

小さな爆発音を残し、爆発する天井に張り付いていた物体。

サンリーンの動きが、少しの間止まる。

リウ「アレから指示を送っているのか…なるほどね…」

再びサンリーンが動き出そうとしたとき、閃光が走りすべてのサンリーンが崩れ落ちた。

テムジン「さ、行くか。」

リウ「そうだね。」

 

 

―4時37分、4階中央広場、ロボトル中―

リオン「これで…フィニッシュ!」

リオンが叫ぶ。

リュー「おおおおおおお!」

咆哮、左腕が繰り出される。

容易く花を砕き、吹き飛ばした。

「嘘…」

少女の後ろの壁に撃ちつけられ、項垂れる花。

リオン「俺の勝ちだ。道を開けろ。」

その場に崩れ落ち、項垂れる少女。

その横をリオンが通りすぎていく。

リオンが進むべき道の前に来たとき、ゆっくりと柵が上がっていく。

リオンの後を追って走るウイングが少女の横を通り過ぎていくとき、彼の耳の搾り出すようなダーリンと呼ぶ声が聞こえた。

ウイングが一度振りかえり、悲しそうな目で少女を見るとまたリオンの後を追いかけていった。

 

 

 

―4時42分、3階中央広場、戦闘中―

パレット「やっと…向こうが見えてきたわね…」

トルースの各部の装甲に黒い傷が出来、右肩の装甲は吹き飛び、ティンペットが露出している。両腕の刃は欠けてこそいるがまだ健在である。

フェイクはそんなに損傷は無く、鎌も欠けて無い。

レイヤー「そうね―、ありがと、ベベル。」

反対側に立つ銀髪の女性に礼を述べる。

パレット「それじゃ、行くわよ!」

レイヤー「そのほうが良さそうね。」

一度後ろを振りかえる。サンリーンが列を作って道の向こうから進んでくるのが見える。

パレット「多いわね…逃げるが勝ち!」

水色の髪をなびかせ、サンリーンの残骸を踏み潰しながらベベルのいる方にかけていく。

レイヤー「どうしたらこんなに数が出てくるのかしら…やっぱ資金横領の結果かな。」

前を走るパレットに向かって言うも、全く相手にされない。

レイヤー「ちょっと聞いてる!?」

 

 

 

―4時45分 ロボロボ団本部、1階厨房裏口―

「慎重に、ばれないようにね。」

少女の後ろを屈んで歩く3人の少年に向かって呼びかける。

「勝本さぁん、なんでこんなこそこそ行かなきゃ行けないんですか?正面から突撃を…」

瑠璃の後ろを屈んで歩くオールバックの少年、ノリスが言う。

それをもう一つ後ろを屈んで歩く眼鏡をかけ髪を下ろした少年に小突かれる。

恭治「お前この戦力で勝てると思ってるのか?何やら入り口だけ守りが堅いし。」

それを更に後ろ、一番後ろを歩く髪で目が隠れた少年が返す。

シン「どうやら見つかったみたいだな。」

摘み食いに来ていたロボロボ団員数名が彼らを見て動きを止める。

ロボロボ団員「ロボォ――――――――!?」

そして叫ぶ。

瑠璃が困ったような笑みを浮かべ

瑠璃「見つかっちゃった?」

後ろにいる三人の少年を見てこう言い残した。

瑠璃「私は先行くからここはヨロシクね♪」

ロボロボ団員の間を柔軟な身のこなしで通りぬけ、そのままどこかへ走っていってしまう。

残された三人の少年のうち一人は呆然とそれを見送り、後の二人はロボトルに備えメダロッチを構える。

恭治「メタビー!」

肘を曲げ腕を縦に持っていく。

シン「忍!」

肘を曲げ、腕を横に構えメダロッチを口元に運ぶ。

キ&シ『転送!』

メダロッチから光が放たれる。

恭治の前で、メタビーと呼ばれたメダロットが形を作る。

重装甲高火力KBT型”ブウイヌッタ”。

シンの前で、忍と呼ばれたメダアロットが形を作る。

NIN型、サルトビ。目にはバイザーをかけ、直接殴るタイプの腕。

対するロボロボ団員はサンリーン…では無くGLF型ウィンドクラップ。それが5体。

ノリス「二脚3、多脚もどき4、車両1、いくぞ!」

左腕を天にかざし、叫ぶ。

ノリス「あるまー!転送!」

ノリスの目の前に、赤い光が放たれる。

それは徐々に形を作り、やがて完全に姿をあらわす。

アルマジロ型。砂のような黄色い装甲、レンガのように細い線。そして両手にはリフレクサ―ソードのような爪が3本ずつ。

あるまー「言ってた人数と違うよぉ!また嘘ついた〜!」

ノリス「苦情はあとでだ。いくぜ!」

ノリスの声と共に、その場にいたすべてのメダロットが動き出した。

 

 

―4時52分、5階通路―

5階の通路を、彼らは走っていた。

リオン「ああもう数が多いな〜」

一瞬後ろを振り返り、その数を確認しようとするが走ってるせいで視点がぶれて確認できない。

ウイング「誰だよ最初に逃げようって言ったの!」

リオンの後ろを走りながら後方から飛んでくる弾丸などをリフレクトシールドで受けとめる。

リュー「拙者が言ったが、何か?」

リオンの前を走りながら後ろにいるウイングに向かって返す。

ことの始まりは数分前。

 

徒歩でうろついていたのだがふと後ろを見れば後方からウィンドクラップとサンリーンが大挙として向かってきていた。後ろからなので逃げる道は先にあると判断し、逃げようとリューが提案した。

 

それに賛成して今逃げているのだ。

この先が行き止まりである事を遠目で確認し、すぐそばにある角を右に曲がる。

壁に開きかけたドアがあったので、そのドアを目一杯に開ける。

リオンがまず入り、その後ろを走っていたウイングが続けて入る。少し先に行って気付き、リューが入ると共に扉を閉める。

扉の向こうでドタドタなどの走る音やらタイヤのグリップの音などが何度もし、やがて静かになった。

リオン「やれやれ…行ったか…」

安堵のため息をつき、視線を前に戻す。

目の前に広がる画面。何十個とも言う画像が映され、ここが監視室だと言うことが分かった。

机に突っ伏しているロボロボ団員。どうやら寝ているようだ。

リオン「悪いけど…邪魔なんだよね…」

そう呟き、ウイングとリューに指示を送る。寝ていたロボロボ団は叩き起こされ、リューに殴られて気絶した。

気絶したところを近くにあった使って無いコードで縛られ掃除用具入れの中に押し込められた。

リオン「これで良し、っと。あ、お前ら外に出てろ。」

首元に掛けていた風呂敷包みに手をかけ、結び目を解いていく。

ウイング「へ?なんで?」

首を傾げるウイング。リューはなんとなくその意図を読んだようで部屋のドアノブに手をかける。

リオン「答えは簡単。着替えるからさ。」

結び目が解け、風呂敷がぽふと音を立てて地面に落ちる。

リューが外に出ていき、その後をウイングが追って出ていく。

誰もいなくなった部屋でまず頭の鬘を掃除用具入れに向かって投げ捨てる。

着替えが終わりかけ、最後のYシャツをオレンジのTシャツの上から羽織ろうとしたとき、宙を泳いでいた視線がある一点に釘付けになった。

画面の向こうで何やらわめいている少女。

昔から見慣れたその姿がここにあることに気付き意味不明の叫び声を上げる。

『邪魔よ!そこを退きなさい!』

『どこの馬の骨か知らんが、ここを通らせるわけにはいかないな!』

雑音に混ざって、音声が聞こえてくる。

双方のメダロットが転送され、ロボトルが始まる。

しかし相手のメダロットはブラストを狙わず、瑠璃を狙っている。

『嬢ちゃんは可愛いから顔は狙わないであげるよ。』

放たれた銃弾の一つが瑠璃の右肩に掠り、袖を切り裂き僅かに血が滲み出ている。

最新鋭の監視カメラのためその様子がはっきりと分かる。

『メダロットは故意に人を傷つけられないはずじゃ…』

苦痛の表情で肩を押さえながら呟く。

「どうする、行くのか?」

背後からの、声。

その問いに何も答えず、リウ達の状況を確認する。

リウは現在5階に到達している。リオン達よりも先に行っているようだ。

パレット達は4階に今到着したようである。

7階と書かれたテレビに不健康そうな少年の姿が見える。

少年がパソコンをいじるたびにパレットやリウの前に敵が現れる。

因みにノリス達は気付かれなかった。まぁ影薄いしね。

リオン「リウさん達の方に行く。瑠璃なら何とかなるだろ。」

脱いだ服はそのまま置いておき、監視室から出る。

ウイング「自分の信じた事をしろ。後悔をしないようにな。」

ウイングのその声を聞き、歩を一旦止める。その後、また歩き出した。

リューとウイングがその後ろをついて行く。

 

 

―4時57分―

漆黒の闇の中を、一台のバイクがかけていく。

それに跨る男は両腕にグローブをはめその下にはメダロッチがある。頭部にヘルメット、ゴーグルを掛けてヘルメットの下からは蒼い髪が覗いている。

「蒼穹(そうきゅう)、久々だけど大丈夫か?」

バイクのエンジン音に負けないような大声を上げ、左腕のメダロッチの中のメダルに話しかける。

『いつの間に貴様がマスターになってるんだ!?』

こちらも大声を上げ返す。その言葉にはやや怒りが込められている。

「今晩だけだから、ちゃんと言うこと聞いてくれ。」

『そもそもお前リューはどうした!リューは!』

「リュー?リオンと一緒にいるよ。」

『だぁぁぁ!俺の知らないうちに何があった!リオンって誰だよ!』

「俺と有紗の息子やがな!」

『なんだと!いつの間にそんなに時が経っていたのか!』

「いや、この前話したやん。」

『もう忘れた!俺は忘れっぽいんだ!』

「アホか!」

そうこうしているうちに目的地が見えてきた。

エンジンを止め、惰性で走る。

「さあって、準備運動してから行くか!」

 

 

 

―5時01分、4階通路―

レイヤー「また…数が多いわね。」

目の前に群がるメダロット。

ファントムは外見から見れば大したことは無いがメダロッチを見ればそのたまっていくダメージ量は半端ではない。

リームも外見から分かるようにダメージ量が大きい。

唯一無事なのはパレットのフェイクだけ。

今の状況で出来ることを考えれば、もう一つしか無い。

ベベル「レイヤー!」

ベベルの方を見ず、こくりとだけ頷く。

前のほうを飛んでいたリームが戻ってきてファントムの後ろに隠れる。

ファントムが盾で攻撃を反射していく。

パレット「…どっかであったような光景ね…」

因みにトルースは後ろに下がっているため戦闘には参加していない。

ベベル「そんなツッコミしてる場合じゃないわよ。今からリームがMAXで撃つから、その好きに貴方は行きなさい。いいわね!」

パレット「へ!?」

パレットが聞き返そうとしたときには、ベベルはもうリームに指示を出しかけていた。

ベベル「リーム、両腕、フルパワー!」

リーム「応ッ!!」

ファントムの上に飛翔し、両腕を前に向ける。

小さな粒子がその銃口に集まっていきそして、

光の帯が放たれた。

その軌道上にいたメダロットは吹き飛び通路に二本の線が出来る。

レイヤー「早く!行きなさい!」

パレット「…ごめん!」

その作られた道を、パレットが走っていく。その後ろをフェイクが追い掛けていく。

それを見送りながら、レイヤーが尋ねた。

レイヤー「あんたは行かなくてよかったの?」

トルース「俺が行っても足手まといになるだけだ。フェイクに任せるよ。」

少しだけ装甲が回復したので、ふらふらと立ち上がり、ファントムの横に立つ。

その後ろではリームがへばっていた。

ベベル「あとは、宜しく。」

リームをメダロッチへと戻す。

ビームの範囲内の入ってなかったメダロット達が再び動き出した。

 

 

―5時16分、6階への階段―

カンカンと規則正しく階段を登って行く足音が響く。

額の汗を拭い、メダロッチを確認する。

リウ「リオン君はすぐそばで、パレットさんだけ5階に到達…全く疲れるなぁ…」

階段を昇り終え6階にたどり着く。

他の階とは違い中央広場までの一本道。その両壁に幾つものドアが見えるが今は気にしていられない。

一歩一歩確かめるようにしてその道を進んでいく。

後ろの方でリオン達の話し声が聞こえる。

そして中央広場にたどり着いた。

「これ以上、先には行かせない…」

黒い全身タイツを着た男が3人、並んでいる。その中央の男が言った言葉だった。

リウ「悪いけど、僕は今の生活を守りたい。…勝負だ。」

リウがメダロッチを構える。

テムジンが前に出る。

3人の男が、メダロッチを構える。

転送と言い始めたか始めなかったかの時に、轟音が響き、砂塵があたりを包む。

音がした、リウからみれば右側、幹部達から見れば左側に穴があいてるのが見える。

「ようし、よくやった蒼穹。これで俺のキャラは確立する。」

「んなわけないだろ!」

砂塵が晴れていくにつれ、その姿が見えてくる。

下ろした蒼い髪、やや釣り気味の目、年は30近くの男。

その前に立つ、白と青のクワガタを模したメダロット。KWG型、ゾーリン。

いつの間にリウの横に来ていたリオンがその姿を見て

リオン「…親父…」

呆れたように呟いた。

ユウリ「ここは俺達に任せて先に行きな!」

リウ「リオン君!」

二人が同時に、リオンを見た。

一瞬暗い表情をした後、右…ユウリがいるほうに向かって走り出す。

右にいた幹部のメダロット”バルチャー”が、リオンを追って動きだす。

が、すぐに止まった。

テムジン「お前の相手は、この俺だぜ?」

首元にビームサーベルの柄の先をつきつける。スイッチを入れれば、すぐに首が吹き飛ぶ事は明白である。

テムジンから目を離し、リオンの方を見る。

ユウリの横、穴の前で歩を止めている。

リオン「リウさん、ごめん!」

背を向けたまま、叫ぶ。

リウがなんのことかと、首を傾げる。

そして振りかえり、苦笑いをしながら言う。

リオン「…俺、やっぱり放っておけないよ。」

リウがはぁ、と呆れ顔でため息をつく。

瑠璃が来ていた事は、とっくに気付いていたがあえて言わないようにしていた。

リウ「…世界よりも幼馴染か。素敵な自分勝手だね。」

リオンの方を見直す。そしてこう言った。

リウ「必ず、戻ってくるんだよ!」

リオン「了解!」

自身満々の笑みを浮かべ、ぐっ、と親指を立てる。

その後ウイングの背におぶさり、穴から降りていく。リューがその後に続いて穴の中に消えていった。

タクアン「これで貴様らの作戦は失敗か…」

馬鹿にしたようにハッと笑い、自らのメダロットに攻撃の指示を与える。

リウ「それはどうかな?レイブン相手でも3対1ならなんとかなるかもしれないよ。それに、リオン君が戻ってくるまで耐えられればこっちの勝ちだよ。」

もう一度前を見て、メダロッチを構えなおす。

テムジンがサーベルのスイッチを入れる。

首が吹き飛ぶ。

蒼穹「これで2対2。後は俺が何とかするから、あんた等は先行きな。」

蒼穹が、右手…刃と一体化したその手を広げる。

タクアン「勝負だ…神龍 ユウリ!」

ユウリ「俺をご指名かい?望むところよ!」

左幹部「それじゃあ俺は安藤 リウか。」

彼が愛機、”ウォーヘッドリィ”に指示を与えようとしたとき、ちょうど真ん中に閃光が走った。

その閃光を境目に、身体が崩れ落ちた。

テムジン「アレ、俺の相手はどこに行った?」

わざとらしく声を上げる。その左手にはビームサーベルのグリップ部が、光を灯さずに握られていた。

リウ「彼はユウリとのロボトルに夢中みたいだし、通らせてもらおうかな?」

リウが一歩を踏み出すか踏み出さないかのとき、何かが通りすぎて行った。

パレット「こう見えても、中高と陸上部だったのよ!」

なんだか訳のわからない理屈で、タクアンの横をすり抜けていく。

リウ「早いなあ…じゃなくって僕も行かなくちゃ!」

 

 

ユウリ「蒼穹、左!」

蒼穹「はぁッ!!」

ユウリの指示が飛び蒼穹がそれに従い、左から迫る触手をその右手で切り裂く。

地面を一蹴、それだけで得意間合いに持ちこむには十分だった。

タクアン「しまっ…!!」

今の間合いで反応しても間に合わない。

熟練の者だからこそ、それが理解できた。

蒼穹が、その右腕を最大限に振り上げる。

蒼穹「貰ったぁ――――――!」

斬撃が走る。

振り抜いたその刃が、軌道上にあったリーフのツタを切り裂きその姿を露にする。

ユウリ「蒼穹、チェックメイトだ。…なーんてね。」

馬鹿にしたように笑い、最後の指示を送った。

 

 

 

―5時20分、裏路地―

ウイング「しっかりつかまってろよ…」

リオンがおうと言い、ウイングの角を更に強く握る。

ウイングが右腕を引く。引いた右腕に光を纏い、肩のエアーブースターを開く。

ウイング「ファルコン、アロォ―――――――!」

目の前のドアを思いっきり突き破る。

どうやら中は厨房らしいが、あっという間にその景色も流れていく。

目の前にメダロットの群れが見えるが、それを物ともせず蹴散らし目的の場所へ向かって突き進む。

その後ろをリューが走り抜け、邪魔するメダロットを斬り捨てて行く。

ノリス「今のリオンじゃなかったか?」

恭治「いきなり乱入してきていいとこもってくな。」

シン「でも楽になった事には変わりはない。」

それぞれが思い思いのことを言い、また目の前を見る。

残る敵は後僅かになった。

 

 

 

―5時22分、一階受け付け―

「お嬢ちゃんの相棒もよく耐えたね。だけど、もう終わりだよ。」

ブラストの装甲はもうボロボロであった。

瑠璃を庇う為に攻撃を甘んじてその身に受け、もはや立っているのすら奇跡に近かった。

最後の一撃のため、その蒼いメダロットは右腕の銃器を瑠璃ではなく、ブラストへ向けた。

ブラストが庇っていたお陰で傷はリオンが見たあの時のしかついていない。

蒼いメダロットが、その一撃を放った。

銃弾は容赦無く、ブラストへ向かって飛ぶ。

瑠璃が、目を強く瞑る。

その耳に、別の銃声が響く。ゆっくりと目を開けた時その瞳にはある人物の後ろ姿が映っていた。

「俺の大切なモノに手を出す奴は…運命だろうと容赦しねぇぞ!!」

明らかに怒りを含んだその言葉。

しかしそれでも動じずに、冷静に返す。

「来ましたか神龍 リオン…」

男が、ぱちんと指を鳴らす。

天井に埋め付けられた丸い紙コップのような物が光り、そこから9本、光りが地面に向かって伸びる。

光が消え、現れた青いメダロット。

天に向かって伸びる角。その両腕には銃器を付け手には槍が握られている。

その姿は…

ウイング「俺…」

肩のポットこそ無いものの、その姿はバンガードビートル。

手に持った槍の形状も特殊で、刃の付け根近くにリボルバ―のような物がつき、その下に御丁寧にトリガーもついている。

ウイング「量産型か…上等!」

ウイングとリューが構える。リオンが両腕をクロスしてメダロッチを構え、指示を飛ばす。

リオン「リュー、お前は流れ弾を落とせ!ウイング、回避重視で避けながら撃て!」

ウ&リュ『応ッ!』

ウイングが右へ走る、リューが両腕の武器を構える。

ウイングを狙った弾丸は案の定その後ろにいたリオンへと流れ弾となって飛ぶ。

それをリューが右腕の刃で全て切り落とす。

リオン「ウイングまずは一番近い奴を!リューその調子で頼む!」

ウイングが左腕のマシンガンを放つ。

一番手前の量産型に当たり、動きを止める。その止まったのに後ろから追って来た量産型がぶつかりドミノ倒しになる。

ウイング「…データだけじゃ、ロボトルは出来ないんだよ!」

ドミノ倒しになった量産型に、両腕の銃撃を浴びせる。

それでも一番後ろにいた量産型が起き上がり、ウイングに向かって飛びかかる。

リオン「リフレクトシールド、全開!」

つっこんでくる量産型に向けて掌を向け、顎を引く。

突き出した槍の前に、緑の反射板が広がる。

しかし槍はそれを中和し、ウイングへ向かって伸びる。

ウイング「な…!?」

首を傾け、後僅かのところでかわす。

そのままのしかかって来た量産型を右腕で受け止め、反応弾を放つ。

量産型の背に回り込み、爆発。幾らかスパークを起こしそのまま項垂れる。

リオン「なるほどね、ウイング背中を狙え!」

ウイング「あいよ!」

興味があったので槍をぶん取り、量産型を迫ってきた別の量産型のほうへ投げつける。

ぶつけられた量産型が倒れ、その後ろにいた量産型が左腕を前に突き出す。

腕の装甲が開き、

飛んだ。

そう、飛んだ。

驚きながらも槍で叩き落す。ワイヤーに引かれて元に戻る。

ウイング「オリジナルはワイヤーなんてセコイ事はしない。ジェットで飛ぶんだ!!」

左手に持っていた槍を右手に持ち替え、左手を前に突き出す。腕の装甲が持ちあがり、肘の近くの継ぎ目の下が左右に開く。

ウイング「リフレクトフィスト!」

光りを纏いウイングの腕も、飛んだ。

リオン「ウソォ!?冗談でつけたけどほんとに飛んだ!」

先ほどロケットパンチを放った量産型の顔面に減り込み、ワイヤーが付いて無いのにちゃんともとの場所に収まる。

ウイング「さ、まだ来るのかい?」

槍を構えなおす。それでも全く恐怖心と言うものがないのか、4体。飛びかかってくる。

バックステップ、飛びこんできた量産型をかわし、もう一回下がって突き出された槍をよける。

更にその後ろから2体、飛びかかってくる。

右のほうに向かって踏み込み、槍を持った左腕を柄の一番下を握り最大限のリーチで突き出す。

そのまま手前に引きつけ、開いている右手の人差し指をトリガーにかける。引かれた量産型は返しが効いてるのか、刃から離れず項垂れている。

左側の量産型が槍を突き出す。先に飛びかかった4体の量産型が槍での攻撃を止め銃撃をはじめる。

更にバックステップで左の槍をかわし、突き刺さった量産型を盾にして銃撃を受け止める。

左足の踵を床の隙間に掛け、一歩踏みこむ。

左側の量産型に槍を突き出し、胸を刺す。トリガーを握る右手の人差し指に力を入れ、引く。

独特の振動が手に伝わり、槍が細かく揺れた。

団子状態で2体が槍に突き刺さっている。

リオン「突っ込め!」

ウイング「うおおおおおお!」

槍を突き出して、4体に突っ込む。今だ射撃を続け先ほど刺した量産型がその度に小刻みに震え、装甲が吹き飛んでいく。

ウイング「てやぁ!」

槍を一度振り回し、槍についていたお荷物を二つ目の前の量産型にぶつける。そのまま下敷きになり、もがいている。

荷物を受けなかった4体のうちの真ん中の2体が、槍を構えなおす。

エアーブースターの突進力を生かした突きを受け、右側のが止まる。

左側のが槍を突き出すのを回し蹴りで槍を弾き飛ばし、そこへマシンガンの銃撃を浴びせる。剥き出しになった内部機構を抜いた槍で突き、破壊する。

起きあがった両サイドの量産型。さらに残った1体。3方向から囲まれる。

全員が、槍を突き出し突っ込んでくる。

リオン「ウイング、飛べ!」

返事は返さず、地を蹴る。更にエアーブースターの分も乗せ更に高く飛ぶ。槍をかわすには十分な高さへ。

エアーブースターを切り、一体の後ろへ着地。その背に向けて槍を突き刺し、そのままウイングから見て右側の量産型に投げつける。残った左側の量産型は槍での攻撃ではなく、両腕の銃器からの攻撃を開始する。

ウイングがトリガーに掛けていた右手の人差し指を中心に槍を回転させる。回転した槍が銃弾を弾き飛ばす。

その隙にウイングが反応弾を放ち、これも背に回り込み爆発。そのまま倒れる。

起きあがった右側のが槍を突き出して突っ込んでくる。

それをあっさりかわし、肘撃ち、腕を叩きつけよろけた所に槍を突き刺し、抜く。

リオン「後は、お前だけだ!」

先ほどから微動だにしなかった最後のバンガードビートル…その姿は本物と大して変わりは無い。

「…………。」

驚いているのか、それとも予想していたので冷静であるのか、サングラスの下の表情が読み取れない。

ウイング「…いくぞ。」

右手で槍を握り、長い柄を背に回し、そのバンガードビートルへと近づいていく。

「撃て。」

射撃をぶつけるには十分なほどの間合いで、その両腕を前に向け、銃弾を放つ。

ウイングが一度目を閉じ、開いた。リオンの指示が飛ぶ。

カラン、と槍が地面に落ちる音がしウイングへ向かっていた銃弾が全て進行方向を180度…バンガードビートルの方へ向かっていく。

自らの放った銃弾で、バンガードビートルは崩れ落ちた。


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