昨日は蒼から色々と聞き出した。
彼の名前がブレードウイングということ。逃げ出してきた事。そして、自分が選ばれた理由を。
色々と考えが浮かんでしまい、寝るのが夜の1時ごろになってしまった。
「おい、起きろ!」
ウイングの声がする。もうちょっと寝かせてくれ…リオンは心の中で呟いたが聞こえるはずもない。
「おい、起きろ。」
リューの声。一向に起きる気配はない。
黙った…どうやら俺の勝ちのようだな。さて眠らせてくれ。そんなことを心の中で呟く。
『起きろ〜!!!』
ニ体の声に夢から引っ張ってこられる。
リオン「もうちょっと寝させて…」
布団から頭だけ出す。目付きからしてまだかなり眠そうである。
ウイング「遅刻するぞ!」
リュー「リオン!」
布団を剥ぎ取られ、半ば無理やり起こされる。寝ぼけた目で時計に目をやると8時23分を指していた。
リオン「やべえ、遅刻する!」
眠たそうだった目が一気に開かれ、いつもの目付きに戻る。
ウイング「さっきから言ってんじゃん!」
ウイングのツッコミを無視し、リューの用意してくれた制服に着替えを始める。
まだ新しいYシャツに袖を通し、灰色のズボンに足を突っ込む。ワンタッチでネクタイを止め、最後にブレザーを羽織る。着替え完了。
バックを居間に放り投げたことを思い出さず、階段を降りる。途中階段を踏み外しかけたがなんとか持ちこたえ、玄関に出る。
靴は完全に履くことはなく、踵を踏んだまま彼は慌てて家を出た。
ウイング「おーい、バック忘れてるぞー。」
もちろん彼は気付くはずもない。ひとつの事に集中したら周りが見えなくなる。それが彼の悪い癖でもあった。
リオン「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
全力疾走!このままでは遅刻するからだ。
ウイング「まてぇぇぇぇぇ!!!!」
バックを持ち、玄関を飛び出しリオンのあとを追ってくるウイング。もちろんリオンは気づかない。気付くはずもない。
信号を無視し、車をギリギリでかわし、ポストを無視し、クリーニング屋の前を駆け抜け、角を曲がる。
校門が見えてきた!ああ、間に合ったかな?そんなことを心の中で呟く。
慌てながらも上履きに履き替える。下駄箱にいいかげんに靴を放り込む。上履きの踵が上手くはまらない。
とにかく、上履きはそのままにして、階段を急いで駆け上がる。1年は4階に教室があるため急がなければ間に合わない。
踊り場でグリップを生かしターン。フルドライブで廊下を駆け、そしてドリフトで開いたままのドアを駆け抜ける。
リオン「ゴォォォォォルゥゥゥゥゥゥゥ!!」
命からがらセーフ。右腕を天高く突き上げる。彼は時間に勝利したのだ。
勝利の余韻に浸りながら息も絶え絶えに机に座る。そこで何かがないのに気付く。
ノリス「お前バックはどうした?」
ツッコミ。因みに連番だから彼は席が後ろ。
リオン「…しまったぁぁぁぁぁ!」
両手で頭を抱え天に叫ぶ。もはや取りに帰る気力も残っていない。
ガラララ。
先ほど閉めたドアが開く。先生かと思いそっちを向くリオン。
しかしそれは違っていた。なんとバックを持った青いKBT、サイカチス。名はブレードウイング。略称、ウイング。
ノリス「あれ昨日の奴だろ?」
一応彼も現場にいたので。とはいってもほとんどリュー一人で救出したのだが。
リオン「ああ。」
席を立ち、ウイングの所に歩いていく。
リオン「ありがと。」
ウイングの小さい手からバッグを受け取る。
ウイング「お前呼んでもきづかないんだもん。」
目を細めるウイング。自分の席の方に歩くリオン、そのあとに続いて歩くウイング。
リオン「ワリイワリイ」
苦笑いをして頭を掻く。席にバックをかける。そこへちょうど…
ガラララララララララ
いつの間にしまっていたのか、ドアを開け誰かが入ってくる…先生だ。
ウイングが慌てて掃除用具入れの中に逃げ込む。
誰か「起立、礼」
まぁ、HRじゃおなじみの号令。
先生「え〜っと、最近、ロボロボ団がこのあたりで出るそうなのであまりいじめたりしないことロ…だ。以上。解散!」
なにやら挙動不審になりながらも先生が教室から出ていく。あきらかに怪しい。
このあたりでぴんときた読者はセレクト隊に連絡しよう!
ウイング「あれ、授業ないの?」
掃除用具入れの中から出てくるウイング。…なんだかなぁ。
リオン「今日は全校ロボトル大会予選日なんだ。」
全校ロボトル選手権。花園一帯の学校で行われる選手権、各校で優勝、準優勝したチームをその学校の代表として選ぶ。
これに出られれば一応有名になれ、週刊誌”TIME”に小さいが載ることができる。
ウイング「おい、リオン、出ようぜ!」
興味津々にリオンの服の袖を引っ張るウイング。
リオン「もっちろん、やぁってやるぜ!」
右腕の拳を前に突き出す。自信満々の笑み。
―校庭―
「リオー――――ン」
後ろからあの声がする。昨日も聞いたあの声が…
瑠璃「あんたもちろんでるんでしょ、大会。」
ものすごい殺気を感じる。その上、睨みを利かせてるんだから、これを蛇に睨まれたかえると言うのだろう。
リオン「う、うん。まあね、なはは。」
俺、ここで死ぬのかなァ。そんな言葉がリオンの頭の中をよぎる。
瑠璃「ところであんた、私とチーム組まない?もし、断ったら…」
指をぺキペキ鳴らしてる。これを脅しといわずして、なんと言おう。
ウイング「チーム?」
ウイングが首を傾げながら言う。
瑠璃「そ、チームバトル。使用メダロットは三体まで。だったはずよ。朝の会で言ってたじゃん。」
あいにく朝の会のときはバテバテだったので人の話なんか聞く余裕はなどなかった。
リオン「聞いてなかった。」
しょうがないので、あっさり述べる。
瑠璃「アホ。じゃ、私エントリーしてくるから三体目そいつでいいね。」
そいつとはウイングを指しての事。くるりと反転し、黒い髪をなびかせながら受付に向かって走る。
ウイング「アホだって、ぷぷ。」
口元を押さえ、噴出しそうになるウイング。
リオン「笑うな!…さて。」
ウイングに向かって叫んだあと、左腕の黒と蒼のカラーリングのメダロッチに手をかける。
左腕を前に突き出し、叫ぶ。
リオン「…リュー、転送!」
クワガタを模した、白と蒼のカラーリングの紅き瞳を持つ機体が呼び出される。KWG、ドークス。
リュー「話しはだいたいは聞いていた。」
転送後の身体のバランスを確かめるように、手首を回す。
リオン「なら話が早い。よろしく頼むぜ。」
おう、と頷くリュー。
そこへ、登録を終えちょうど戻ってくる瑠璃。手には白いなにかが印刷された紙が握られている。
瑠璃「ロボトルはスタジアム制だって。それ以外はいつもと同じ。あ、あとエントリーNo.1だから。」
エントリーNo.1ということはいっちばん最初である。
リオン「わかった。ま、俺らなら余裕だろ!」
自信満々の笑み。親指で自分を指差す。
ウイング「すげぇ自信だな。」
腕を組んですぐ後ろに立っているウイング。空を仰げば、今日も青空が広がっている。
しばらく時間がたったのち、校庭にアナウンスが流れる。
「ピンポンパンポンNO.1とNO.2のチームは1番スタジアムに来てください。ピンポンパンポン」
スタジアムとはいったもののグラウンドに白線が引かれている程度。
その知らせを聞いて、ネットから背を離し立ち上がる。
リオン「よーしいくぜ!」
前に向かって、拳を突き出す!
「ロボトルゥ…ファイト!」
レフェリー代わりの体育の男教師が叫ぶ。
リオンが腕をクロスさせ、メダロッチを構える。どうやら、これを謎のメダロッター構えというらしい。しかし、そんなこと彼には関係ない。
リーダー機は一番熟練度が高いリュー。2番機が瑠璃の機体、ブラスト(ゴットエンペラー)、3番機がブレードウイング。
リオン「リュー、リーダー機に接近戦!ウイング、援護射撃だ!味方に当てるなよ!」
リュー「頼むぞ、ウイング。」
フォーバイス、インテスビートをリオンがメダロッチを構えるのと同じように構え、突撃。
ウイング「おう!」
弾の方向がバラけるブラスターではなく命中精度が高いフューザーで、リューのボディの隙間を縫うようにして敵にうまく当てていく。
瑠璃「3号機狙い!」
ブラスト「ん。」
ブラストの右腕の銃から光が伸びる。
避けようともしない3号機に命中、弱そうと豪語された彼はすぐに機能停止。まぁ、もともとWEA型の攻撃力が高いと言うのもあるのだが。
次にリューがリーダー機に攻撃をしようと突っ込む。しかし2体目のメダが庇う様にして間に入る。
リオン「ウイング、反応弾!」
さすがに自機の性能は覚えたらしく、的確な指示をだす。
ウイング「おう!」
右足を後ろに引き、角を少し前に向ける。リューの前に立ちふさがった2号機にロック、そして…
ウイング「いっけぇぇ!」
反動の煙を出しながら、天に伸びた角から発射される反応弾。
リューの横を通りすぎ、リューに標準を合わせていた2号機の頭部に突き刺さり、爆発。流石は必殺武器というべきか、その一撃だけで2号機を機能停止させる。
リオン「リュー!」
倒れかけた2号機の頭部を踏む。そのままカタパルト代わりにし、リーダー機に突っ込む!
リュー「おおおおお!」
思わず、ガードの体制になるリーダー機。しかし、クロスしていたその両腕を開き、ガードを外す。そのまま勢いに乗り額のバイザーで…頭突き。
相手の肩に手をつき、そのままバク転。振りかえりざまにインテスビートを叩き込む。
吹き飛ぶリーダー機。そのままメダルカバーが開き、メダルを射出。機能、停止。
審判「リーダー機ダウン、Aチーム勝利!」
リオン「よっしゃ!次も頑張るぞ!!」
たまらずガッツポーズ。
瑠璃「このまま優勝いただきよ!」
その様子を、影で覗う人。
二回戦
………
ウイング「よっしゃあ!楽勝!」
三回戦
………
リュー「なかなかだったが俺には及ばないな。」
四回戦
………
瑠璃「見た?今の私の活躍?」
「決勝戦、Aチーム対Fチーム!試合は10分後!」
アナウンスがスピーカーを伝って校庭中に響く。
「リオン、次も頑張ってね。期待してるから。」
長い髪を翻し、どこかに行ってしまう瑠璃。
おお、瑠璃の俺に対する態度が変わったような気がするぞ!と、心の中で呟くリオン。もっとも、表情にもそれが表れているが。
ウイング「あいつ、利用されてるだけだってきづかないのか。」
リューの横に座っているウイングが頬杖をしながらつぶやく。
リュー「マスターは鈍いから。でも、利用されてるとは言いきれないぞ。」
目を細めるリュー。心なしか笑っているようなのは気のせいか。
恭治「Aチーム…サイカチス、ドークス、ゴットエンペラーのチーム……メダルは…、ウイングメダル?…どんなメダルなんだ?」
く、とメガネを押し上げる。短髪に揃え、きっちりと制服に身を包んでいる。膝の上に乗っけた携帯端末からAチーム…リオン達のチームの登録データを、校内のページで見ている。
校内のページとは花園3中の生徒のみが利用できるというもので、今回のような行事の際の詳しい情報などが乗ってる場合が多い。
もちろん、詳しいデータも載っていたりする。今回のように。
データ収集に余念がない。たくましいねぇ。
10分後…
先生「両チームそろいましたね。それでは…」
両チームの選手の顔を見る。Aチームは二人、それに対してFチームは一人。つまり一人で三体使うということであろう。
そして、上に上げた拳に力を入れる。
先生「ロボトルゥ…ファイト!」
先生の開戦の声と共に、動き出す、6体!
続く