ウイング「うおおおお!」
エアーブースターを目一杯開き、翼で姿勢制御し、間合いを詰める。
手に握った槍に勢いを乗せ、レイブンに向かって突き出す。
同じように突っ込んできたレイブンの槍のフィールド同士が反発しあい、相殺する。
レイブン「はぁ!」
すぐさま槍を引き、レイブンが先に槍を突き出す。
それを後ろに避け、柄の一番下を握り、槍を振り下ろす。
しかし、距離が離れていたせいか、レイブンの肩に僅かに傷を残すだけであった。
槍同士の、突き合い、切り合い。しかし、どちらが有利となるわけでもなく互いの装甲に小さな傷を作りつづけるだけであった。
翼を広げた二人の戦士の姿が、朝焼けに黒く映し出される。
下からリオンが見上げ、メダロッチを構えている。
リオン「こんなとこについてくるなんて…俺もつくづくお人好しだな。」
実際、リオンが指示を送る隙もなく戦いは続いている。
レイブンが槍をウイングの肩に突き刺し、トリガーを引く。独特の衝撃がレイブンの手を伝う。
苦痛に顔を歪めるも、槍を握りつづける。
ウイングの刺された傷口からオイルが止まることなく流れ出てくる。
腕を伝ってオイルの流れる下の方の柄を握り、槍を振り上げる。
ウイング「超!熱血切り!」
上から大きく振り下ろす。こんなときに技名を叫ぶなんて余裕があるんだかないんだか。
レイブン「…」
羽ばたき、僅かに横に軸を逸らしてかわそうとするがウイングの振りが思ったよりも早く、レイブンの肩に刃が食い込む。さらにトリガーに右手を持って行き、引く。
ズドンという音と共に衝撃が走る。レイブンの肩のクリスタルに、ヒビが入る。
食い込んだ刃を無視するように、槍をウイングの顔を目掛けて突き出す。
身体全体を逸らし、それをかわすウイング。続けてレイブンが槍を振り上げる。
振り下ろされたレイブンの槍を、両手で槍を持ち、柄で防ぐ。
しかし、柄ではフィールドは発生しないため槍を叩き落されされ、槍と同じようにウイングも落ちていく。
リオン「ウイング!…光学式、反・応・弾!」
翼を広げ地面に落ちるのを防ぎ、反転。
ウイング「くらえ!反応弾!」
両の角からエネルギー化した反応弾をレイブン目掛けて放つ。
追撃に出ようとしたレイブンの出鼻を挫くことに繋がり、追撃を防ぐ。
姿勢を戻し、両肩の装甲を開きエアーブースターで、上空のレイブン目掛けて真っ直ぐに飛ぶ。
ウイング「ファルコン、アロ―――――!」
右腕を大きく突き出し、その周りのフィールドを厚くする。
エネルギーミサイルを防ぐのに止まっていたレイブンに当てるのは容易く、その手に握っていた槍をはじき飛ばす。
ウイング「これで…同じ条件だ!」
下の方でコンクリートに槍が当たる音がした。
レイブン「望むところ…決着をつけてくれる!」
右の拳を大きく引き、相手に向かって伸ばす。
二人とも全く同じ動きだったため、間で拳を覆っていたフィールド同士が反発し、ぶつかり合う。
ウイング「はぁ!」
レイブンが左の拳を繰り出す。それを平手で受けとめる。
ウイングが頭を引き、頭突き。顔を後ろに引き、それをかわす。
振り下ろした頭を前に突き出し、持ち上げる。角がレイブンの首間接に突き刺さる。
リオン「いっけぇ!カブト投げ!」
カブトムシが喧嘩のときに角を使うかのごとく、レイブンを投げ上げる。
続けて左の拳を引き、ドルフィンブロウ。ギリギリで羽ばたき、それをかわすレイブン。フィールド同士が擦り、反発を起こす。
姿勢を立てなおし、ウイングに向かって両腕のライフルを放つ。
しかしフィールドに阻まれ決定打にはならない。
レイブン「………おぉぉ!」
羽ばたき、勢いをつけ間合いを詰める。ウイングの頬に向かって、左の拳を勢いをつけて突き出す。
それを受け、軽く仰け反るもお返しといわんばかりに殴り返す。
軽く吹き飛び、1回転。姿勢を整えると同時にリオンのほうへライフルの銃口を向ける。
リオン「!?」
ウイング「させるか!」
羽ばたき、開いていた間合いを詰める。
レイブンの銃口から弾が放たれる。
それよりも早く動き、ギリギリのところでかわすリオン。袖が少し破けたが気にしてる暇はない。
リオン「あぶね―って…。」
ウイングの右の拳がレイブンに向かって伸びる。それを平手で受けとめるレイブン。
ウイング「何故リオンに銃を向ける!」
レイブン「.……目障りだからだ。」
その声が、少し悲しそうにウイングには聞こえた。
左の拳同士が、ぶつかり合う。
ウイングの拳を受け止めていた右手を離し、ウイングの腹部にフィールドを突き破り、銃口を突き刺す。
ライフル連射。
顔を歪めるウイング。しかし、左腕の力は抜かない。均衡状態を保ち、フィールドの反発する音が静かな空間に響く。
リオン「ウイング!」
ウイング「こんなん…根性でなんとかなる!」
瞳が強く輝き、左腕に更に力を入れ、レイブンの拳を破りその勢いで頬を思いっきり殴る。
勢い余って地面に叩きつけられるレイブン。
その前に着地するウイング。
ウイング「…何故嘘をつく!なんで戦おうとするんだよ!」
拳を震わせて叫ぶ。
レイブン「…ばれていたか、私にはもう時間がな…イ…」
彼は気付いていた。自分の体に異常が起こり始めていた事を。自分の意思で、体が動かなくなり始めてるということを。
ふらりと立ちあがったレイブンの身体に、異常が起こる。
体の各部が沸騰しているかのごとく、泡立っている。
レイブン「ト…ドメヲ…ハヤク…」
腕を振り、ウイングを思いっきり吹き飛ばす。
ウイング「うぉぉぉぉ…!」
思いっきり、リオンの横の瓦礫の山に叩きつけられる。
瓦礫の山にウイングを中心とした丸いフィールドの通った後が出来、中に残ったウイングを瓦礫の山が押しつぶす。
リオン「…やるしか、ないみたいだな。」
レイブンから目を離さず、メダロッチを構えたまま呟く。
ウイング「…ああ。」
瓦礫を吹き飛ばし、ボロボロになりながらも立ち上がる。
純白の輝きを放つ、翼を広げる。羽が、舞い降りていく。
羽ばたき、ゆっくりと浮くウイング。
開いた右手を見、その手を握る。
弓を射るかの如く右腕を後ろへ大きく引く。
エアーブースターを開き、空気を溜める。
眼を瞑り、ゆっくりと呟く。
ウイング「これで、終わりにする…。」
その見なれた構えを見て、一番最初に口にしたその言葉を呟く。
リオン「…矢と成りて、悪しき心を射る!」
緑の目を見開き、引いた右手を突き出す。
ガシャン、という音を立てて肩のユニットが、横に向く。
エアーブースターが、溜めた空気を一気に放つ。
背中の翼が、大きく開く。両肩のフィールド発生器からはなたれる光が、その突き出した右手を包むようにフィールドが覆っていく。
ウイング「…ファルコン、アロォ―――――!!」
虚空を切り裂き、一陣の風が駆け抜けていく。
ウイングの緑の光が、残像のように残り、消えていく。まるで涙のように。
そして、零距離。
レイブンの発生させているフィールドと、ウイングの発生させているフィールドがぶつかり合い、スパークを出しながら反発を起こす。
ウイング「――――うおおおおおおおおおおお!!」
咆哮に呼応したのか、ウイングの腕がレイブンの発生させているフィールドに穴を開け、突き抜ける。
ウイングの腕を覆っていたフィールドが消える。…否、消したと言った方が正しいか。
しかし勢いは消さず、腕はそのままレイブンの腹部へと減り込んでいく。
沸騰した熱を装甲から感じながら…いや、感じてはいたものの、意識には入ってこなかった。
ただひとつの事の為に、他の事がシャットアウトされているのである。
拳が装甲をも突き破り、腕がレイブンの腹の中を突き進む。
オイルタンクを突き抜け、手を開き、その奥に在る物――メダルへと手を伸ばす。
暴走した身体を止めるには、その核と成るメダルを外せば…。そう考えた結果である。
そして。
ウイングの手が、いくつものコードと一緒に黒い、六角形の物を掴む。
ウイングの緑の瞳が、輝く。エアーブースターの出力を更に上げ、フィールドを再び、その体の周りに発生させる。
ぶちぶちとコードの切れていく音がする。レイブンの身体がフィールドに反発し、内部から崩れていく。
剣翼が、鴉の身体を突き抜ける。
四散し、地面にぼとぼとと落ちるレイブンと呼ばれていたパーツ。
翼を広げて空気抵抗でスピードを落とし、ゆっくりと地面に着地する。
翼を曲げ、その身に纏ったフィールドを解く。
リオン「……メダルは?」
何も言わず右腕を横に伸ばし、握った拳の親指を下に向ける。腕から、オイルが滴っている。
リオン「…上等。」
メダロッチのカバーを閉じ、ウイングの元へ歩いていく。
背を向けたままのウイングの身体を光が包む。
翼が粒子と成り、消えていく。
元の、バンガードビートルの姿。
ウイング「…終わりだな。」
ゆっくりとリオンの方へ倒れ掛かる。
それを受けとめるリオン。
リオン「ああ。」
顔を上げ、空を仰ぐ。
朝日が昇り、空が青くなっていく。
リオン「…帰るか、みんなのところへ。」
ウイング「…おう。」
あれから、数十日が経った。
今は夏休みの宿題に追われ、いやいやながら勉強をやっている。
リオン「で、あの事件は無事に解決した。まあ、主犯人のあの兄ちゃんはセレクト隊にに連れてかれた。自業自得ってとこかね。
レイヤーさん達は、一般人として過ごすといって消えていった。どこに行ったのかは良くは知らない。
リウさんも、レイブンのメダルのリハビリのため、田舎に行くって言ってたなぁ。あっちの研究所に雇ってもらえたそうで、またメダロットの開発が出来るって喜んでた。今度は変化系メダロットらしいけど。
そうそう、メダロットで思い出したけどあのあとバンガードビートルのリフレクトフィストのパーツが消滅してた。なんでもウイングシステムのせいらしい。
あとは…俺の友人達も普通の生活に戻っていったな。夏休みの間だから、今はあまり顔を合わせなくなるけど、新学期になったらまた会えるだろう。
他には…何かあったっけ?あ、俺の事か。」
ロボロボ団の本拠地にあと少しでつく時、一人の少女が走ってきた。
「りお――ん!」
そのままフライングタックルの如く飛びつく。ぐえ、と声を上げるリオン。
瑠璃「ちゃんと約束果たしてくれた!」
嬉しそうに言う。
リオン「当たり前だ。…俺が約束を果たさない事なんて、そうないからな。」
やや疲れ気味に、返す。
瑠璃「また嘘ばっかり―!」
ぷくぅと頬を膨らます。微笑するリオン。
リオン「…それと、帰って来たかったから。まだやる事があるから…。」
瑠璃「?」
不思議そうな表情でリオンを見る。
リオン「あの時は…俺が言うのやめさせちまったから俺が言う…」
頬を少し赤くして、顔を背ける。
瑠璃「あ…」
リオンにとっては、永遠とも取れる時間が流れる。いままで言えなかった事を言うべきかどうか悩む。
…………
………………
答えが、出た。
リオン「はっきり言う!俺は、俺は……お前が好きだ!」
天に向かって叫ぶ。そのあと、瑠璃へと視線を下ろす。
――――やばいよ、言っちまったよ、俺…。
心の中で、隅っこの方で小さく呟いた。
瑠璃「…私も!」
さっきよりも強く抱きしめる。今度は、リオンも瑠璃の後ろに手をまわし、強く抱きしめる。
――――こういうのも、悪くないかな。
そう、今度は声に出して呟いた。
ウイング「…こういう場合って、俺がいないほうが良いんだろうな…。」
聞こえないような声で小さく呟き、そっと建物の中に入ろうとしたとき気が付いた。
…みんな見てるし…。
レイヤーが、人差し指を口に当てている。つまり、黙ってろと。
はぁ、とため息をつき、建物の中に入っていく。中を通らないと向こうに出れないのだ。
かこん、と地面に落ちていた缶を蹴る音がした。
気付かれたか?!と思い恐る恐る振り返る。
リオン「…!?あ―――――!みんないたのかぁ――――!」
赤面しながら、床に転がっていた鉄パイプを振りまわし、建物内にいたみんなを追いかけていった。
くすくすと、後ろで笑っている瑠璃。
瑠璃「…よかった。戻ってきてくれて…。」
笑顔で、そう呟いた。
幼馴染から、恋人へのステップアップ。もしかしたらこれが彼女の戦いだったのかもしれない。
―――――かくして、翼のメダロットの話は、ここで終わりである。
翼を模したメダルに選ばれ、
龍を模したメダルを従え、
自分を信じ、
自分勝手に生きた男。
その男の名は―――――
「俺の名前?…神龍…神龍 リオンだ!!」