白き翼と少年が出会うときすべてが再び動き出す…



翼のメダロット 第一話  出会い


「えー、諸君らはこれから我が校の生徒として…」

頭の禿げた、教頭と思われる人物が演説をはじめる。さして面白くもなさそうなので辺りを見まわす。

彼の名前は神龍 リオン(しんりゅう りおん)。

花園3中の一年生。黒い髪を持ち、男としては長い、女子のショートカットに近い髪型をし、鋭い目付きをしている。

服装は制服である紺のブレザー、青のワンタッチ式のネクタイ、水色のYシャツに灰色の長ズボン。

彼の通っている花園3中は花中(花園中学)とは違い、普通の人たちが通う、メダロポリス8丁目にそびえる立つ中学校。

位置的に言うと、メダロポリスの中心核にある花園学園の裏をしばらく行った所に川があり、その向こう側に立っている。ちなみにグラウンドの端(校舎と真正面のところ)に、丘があって、その上に花園第三学園というのがある。まぁ、関係の無い話だけどね。

ちなみに今は始業式の最中。といっても彼はほとんど聞く耳を持たない。

リオン「(これから帰ったらリューの整備用品買いに行かなくちゃなんないな…中学生はロボトル三昧だってやつが言ってたからな。)」

右腕につけているメダロッチを見る。

KWG−03と大きく書かれている。因みにKWG−03とはドークス。白を基調とし、シャープなデザイン、右腕にフォーバイスと呼ばれるナイフを装備し、左腕にはインテスビートと呼ばれるハンマーを装備、頭部の二本角は索敵になっている。スピードで相手を翻弄し、強力な一撃で倒すというのがセオリー…かな?

「やるか?放課後。」

後ろからの声。声の主は彼の小学校の時からの親友…もとい悪友のノリス。

髪をオールバックにし、活発そうな顔つきをした少年。リオンと同じ制服に身を包んでいる。

この名前を聞いて水色のMSを思い出したあなたは渋いです。

リオン「ああ、いいぜ。んじゃ、そうだな…二時にポプマーの前。」

ポプマーとはポップマートの略。メダロットなども販売しているコンビニエンスストアである。

比較的彼らの家の近くにあるため、待ち合わせの場所に指名されやすい。

ノリス「うい。」

その後、彼らの担任となる教師に怒られたという。

 

ホームルームも終わり、もうちらほら下校する生徒の姿が見える。もちろん、彼も例外ではない。

リオン「ったく…あんな暇なのきいてられるか!」

バックを肩からかけ、家に帰るべく校門に向かい、グラウンドと校舎に挟まれてアスファルトで舗装された道のりを歩いている。

『マスター、あまり愚痴をこぼすのは良くないと思うが。』

左腕につけたメダロッチからの声。メダロッチがあれば位置が離れた場所にいるメダロットとでも会話が出きるのである。

リオン「いいの、リュー!あれは俺が怒られるべきではなかった、怒られるべきなのはあのくだらない話をはじめた教頭だ!」

理不尽な言い訳をメダロッチに向かって叫ぶ。

「なに言ってるのよ!いい加減な事言ってないで自分の罪を認めなさい!」

リオンの背後からの女性の声。

ふぅ…とため息をつき、後ろを向く。

リオン「なんのようだ、瑠璃。」

瑠璃「なによ、その態度は!」

かなり起こっている様子。

黒い、艶のあるロングヘアーをなびかせた勝気な顔つきの女子、勝本 瑠璃。リオンとは幼馴染である。

リオン「いんや、べっつにぃ。」

とぼけたような声でごまかそうとする。しかし、そうは行かない。

瑠璃「あんたねぇ、中学生になってもそれ!?」

呆れながらも大声で叫ぶ。

リオン「俺は一生変わらん。」

ふう…とため息をつき、左手首にはめたメダロッチを右手で操作する。

瑠璃「こうなったら力ずくで―――。」

瑠璃がメダロッチを構える。

リオン「リュー、転送。」

それよりも早く、リューを転送する。

メダロッチから撃ち出される光。

地面にぶつかると同時に形を形成していく。

天に向かって伸びる2本角、丸い形をした両腕、すらりと伸びた脚部。白と青のカラーリングの機体”ドークス”。

リュー「なんでしょう。」

リオン「”レクリスモード”逃げるぞ。」

レクリスモードとは、メダロットの変形機構”メダチェンジ”での変形先形態の一つでおもに高速移動型になることが多い。

もちろん、ドークスもその例に漏れることはない。

リュー「御意。」

腕の甲が下を向き、脚部が反転。チャックから青い新たな足が伸びる。

4本足で立つその姿、走行形態”レクリスモード”。

リオン「少し荒業だが、屋根伝いで。」

背中にまたがり、角を掴む。

リュー「のりゃ!」

見を屈め、その4本足で大きく跳躍。人を乗せたままであるのに、2階建ての一軒家の屋根に楽々と到達する。

リオン「んじゃ、また明日〜。」

見下ろすような感じで手を振る。かなり余裕じみた笑みで。

瑠璃「ちょっと!待ちなさい〜!」

 

あれから最短距離で屋根伝いにリューを走らせ、飛躍的短い時間で家についた。

リオン「うぷ…」

手で口を塞ぎ、苦しそうに玄関を空ける。顔色が悪い。

リュー「どうした。」

そのあとに続けて入る。レクリスモードから、通常の2本足で立つ形態に戻っている。

リオン「いや…少し酔った。」

靴を脱ぎ、玄関に上がる。居間にバックを投げ込み階段を上る。

自分の部屋の扉を開け、ベットに腰掛ける。そのあとをリューが続いて部屋に入ってくる。

リオン「リュー、2時からポプマーでロボトルだから。」

メダロッチで時間を確認する。今は12時32分、まだ十分時間がある。

リュー「わかった。しかし、お前は前のマスターと比べるとずいぶんロボトルが好きなようだな。」

パソコンの置いてある机の椅子を引き、それに座る。

リオン「前のマスターって親父だろ?うちの親父は闘争心が無さ過ぎたんだよ。」

リューはというと本棚に入れてある漫画を引き出し、そのまま座り込んで本を開く。

リュー「そうかもしれないな。見るからに戦うって顔じゃないからな。」

リオン「ま、そういうことよ。」

机の方に向きなおし、パソコンの電源を入れる。

 

 

薄暗い路地裏、逃げる蒼とそれを追う数体の捕獲用メダロット。

「このお!」

蒼が追っ手のメダロットに向かって、右腕の銃を撃ちこむ。

急所を貫かれ、機能停止するメダロット。しかし、まだ数は多い。

怯むロボロボ団一般兵。

その隙に逃げる蒼。

「まずい…なんとか、あいつに会わないと…」 

オイルの吹き出る左肩を押さえて呟いた。

 

 

―ポップマート―

リオン「よう!」

整備品を買い終えて店から出てきたところにちょうどノリスがいた。

私服の黒のTシャツに白い長ズボン。ハッキリ言うと似合わない。

ノリス「うっす。」

敬礼のようなポーズで挨拶する。

「こんにちは〜。」

まったりとした口調で話すノリスの横に立っている黄色いメダロット、アルマジロ型”あるまー”。

リュー「こんにちは、あるまー。では、リオン。」

リオンのほうを見る。軽く頷くリオン。

リオン「おうさ。」

左腕につけたメダロッチを前に突き出し、肘を曲げ口元に持ってくる。

メダロッチの蓋を開き、構える。

メダロットの2体は広いところに出て、互いの武器を構える。

ノリス「ロボトルファ…」

その言葉を全て発する前に、何かがリューとあるまーの間に飛び込んできた。

何か「てて…」

その飛び込んできた何かに向かって数体のメダロットが飛び込んでくる。

リオン「…リュー!」

リオンが叫んだ。リューが頷く。

リュー「その正義感だけは父親譲りだな。」

囲まれた何かの前に庇う様に立つリュー。

突然の乱入者に混乱したのか一度動きが止まったが、一斉にリューに飛びかかるメダロット達。

左腕から棒が延び、ぽん。という音と共に黄色いハンマーが広がる。名を、インテスビートという。

インテスビートでメダロットを薙ぎ払う。浮いたところにアンカーフックに変えたフォーバイスで一番端っこのメダロットを掴み、降りまわす。

浮いたところにぶつけられたので大きく吹き飛ぶメダロット達。中には機能停止したものもいる。

ノリス「あるまー、そいつを救出!」

隙を見て、指示を送る。

あるまー「はい〜」

とてとてと走っていき、蒼を抱え上げる。

捕獲メダロットは吹っ飛んでいたので邪魔されることなく戻ってくる。

リオン「…あ、整備道具買ったな。」

ロボトルから目を離し、地面に置いといたビニール袋の中に手を突っ込む。

がさごそというビニール独特の音がし、中から先ほど買った整備道具一式を取り出す。

リオン「えーっと、どうやるんだ?」

蓋を開け中から説明書を取り出し、それを広げてまじまじと見つめる。

「はやくしろよ!」

右手を振り上げ、怒り出す蒼。びびるあるまー。

リオン「あ、生きてたのかお前。」

説明書から目を離し、呟く。

リューが吹っ飛んだメダロットにワイヤーから戻したフォーバイスで止めを刺していく。

神妙な顔をし、説明書の案内にしたがって整備用具の入ったはこの中からテープとチューブ状のなにか、それと包帯を取り出す。

まずはオイルの吹き出ている左肩をテープで覆う。一応止まるオイル。

次にボロボロになった脚部や両腕部にナノマシンの活性化を促す薬剤を塗り、包帯で覆う。

リオン「これで大丈夫かな?」

包帯をテープで止め、応急処置終わり。

ついでにロボトルも終わり。

蒼「…とりあえず大丈夫だ。」

身体の各部の動きを確認するように、いろいろと動かしている。

蒼「ところで神龍リオンという男を捜しているんだけど知ってるか?」

一瞬、時が止まる。

リオンが、ゆっくりと口を開く。

リオン「…俺だ。」

そうかといった感じで頷く蒼。

蒼「お前か。今日から俺は、お前のメダロットだ。

至って真面目な声で言い放つ。

そのミドリの瞳でリオンを見つめる。

リオン「…ええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

よく晴れた青空に、彼の叫び声が響く。

 

 

 

時の歯車が回り始めた。

何も変えられなかった少年が時代を紡ぐ存在へと変わっていく。

翼の光が、全てを導いていく。


続く。