僕が君と出会ったのは、僕がまだ幼き日だった。

「なぁ、ジョーカー。今年で何年目だっけ?」

カレンダーをみて、やっと思い出したことだけど。

「知らん、忘れた」

今日は、君と、僕が出会った日だね。

「…まいっか」



          君と、僕



カジノというべきか、煌びやかでとてもやかましい施設の端。
机に座った年寄りの正面に、黒髪の30歳近くの男が座る。
「飛翔のじいさん、今日こそ勝たせてもらうぜ」
やたら自身ありげな笑みを浮かべ、ポケットからトランプを取り出す。
「あんたじゃ無理だ、今日も負けるじゃろ」
呆れた表情で目の前に座った男を見やる。
「超なんだと!」
「賭けの品がないんじゃなぁ…」
視線を横に泳がせる。
美人の女性が脇を通り過ぎていき老人がそれを目で追いかける。
「ふふん、そういうと思ってな」
ポケットに手を突っ込み、それを取り出す。
視線を前に戻し、男が取り出したものを見やる。
「なんじゃ、この板は」
自慢げな笑みを浮かべ、顔を近づける。
「じいさん、表にあんたの孫がいたろ。うちの娘と遊んでる」
「ああ、紅のことか」
その名前を聞いて、男の眉がぴくんと一瞬上に上がる。
「…あっちで干渉したからこっちにまで関係してんのか…?」
「何を言っとる」
「あ、いやこっちの話」
そこで一旦区切ってから、こほんと咳払いをして説明をする。
「これはメダロット専用の腕時計でな、あんたの孫…紅はメダロット持ってないだろ?」
「たしか、持ってないな」
頬杖を付いて、ポケットの中を漁る。
札を二枚取り出す。
「今日のレートはこれぐらいか?」
「そうだな、今日こそその二万を貰うぜ!」
賭けの品が出揃ったところで男がトランプをシャッフルする。
勝負の方式はポーカー。
黒髪の男が切り終わったトランプを赤髪の老人に渡す。
適当にカットした後、机の真中に置く。




「だー、負けたー!」
テーブルの上にトランプを投げ出す。
役の一つも出来ていない、負けて当然の手札。
「…これで32回目かの」
今日の成績を告げる。32回目というのは老人が勝った数。
「くっそう、今日も引きが悪いな」
手札を束に戻し、ポケットの中にトランプを押し込む。
時計を見なくても、客の引き具合からもう閉店時刻が迫っているのが分かる。
「ほら、じいさん。今日の賭けの賞品だ」
クリアカードメダロッチっていう名前だからなと説明をつけて皺の多い手にそれを渡す。
「…素人でもわかる、メダルは?」
メダル。
六角貨幣石とも呼ばれるメダロットにおける脳、魂の在り処、命。
それがないとメダロットは起動すら出来ない。
「冗談だよ」
さ、と右手を老人の前に差し出す。
「なんじゃこの手は」
「メダルは二万円になります」
悪戯っぽい笑みを浮かべて問いに答える。
「なら今までの借金を「あー悪かった悪かった!渡すよ!」」
老人の手に、金色の卵の描かれたメダルを渡す。
卵の中心で、青色の宝石が美しく輝いている。
「(わしはもうそんなに長くないだろうから、紅を頼むぞ)」
そのメダルを握り、心の中で呟いた。



カジノから外に出る、夜風が頬に当たって涼しい。
「じゃあね、紅君」
「さようならー、光璃さんー」
自分の孫が女の子に向かってやけに元気に手を振っている。
その様子に頬を緩めながら、数段だけの階段を下り孫の頭にぽん。と手を乗せる。
「帰ろうか、紅」
「うん」
「明日も、手品を教えてやろうかの」
「ホント?教えて教えて!」
無邪気に喜ぶ孫の手を取り、帰路につく。
その歩みの中で、まだ幼い孫に優しく言う。
「手品は、人を笑顔にさせる不思議な魔法なんじゃ。みんなが笑ってられたら、幸せじゃろ?」
「うん!」
満面の笑みで、孫が答える。
きっとこの言葉の本当の意味はまだ判らないだろう。
苦しいこと、悲しいことが世の中には沢山ある。
だからこそ「笑顔」にさせるということが大切だということを。
みんなが幸せでいるということの大切さを。
老い先が短いと分かっているから、伝えておきたかった。



翌日、手品を教え終わり暇になった時に孫を呼んだ。
「何、じいちゃん」
「ほら、プレゼントだ」
昨日男から貰ったものを孫に渡す。
孫は喜んでそれを腕につける。
小さな腕には不釣合いな、透明の板。
指が板に触れると、起動音が鳴りディスプレイが浮き出る。
「?」
それを見て、きょとんとなっている孫の後ろに立ち変わりに操作をしてやる。
所持者名義、パスワード。そして…
「メダロットの、名前を決めてやれ」
「メダロット!?」
それを聞いた途端つまらなさそうにしていた孫の目がキラキラと輝き祖父を振り返る。
「ああ、ここにメダルが入ってるじゃろ?こいつの名前を決めてやるんじゃ」
「カッコいい名前が良いな…えーっと…」
何かいいものはないかと、辺りを見回す。
その時、先ほどまで自分が手品の練習に使っていたものが目に入った。
トランプ。
名案、と思い孫が声を上げる。
「ジョーカー!名前はジョーカー!」
「ふむ、いい名前だな。これで終わり…さ、転送って言ってそいつと話をしてごらん」
「うん!」
前に一度見たことがある、光璃さんと呼んでいる年上の少女がやってたのを真似してメダロッチを構える。
「転送!」
メダロッチの中のメダルを囲むように青い六角形の光が走り、板全体が発行する。
その光が光球となり、目の前に浮き上がる。
その中にメダロットの骨格[ティンペット]のシルエットが浮かび上がり、その周りに[パーツ]と呼ばれる四肢が浮かび上がる。
[パーツ]が[ティンペット]にはまり、ネジやらなんやらがそれを固定していく。
最後に、[パーツ]を纏った[ティンペット]の背中に[メダル]が入り、カバーが閉じる。
額からまっすぐに伸びた白い角、黒い額当て。
やたら大きい肩、前時代的な両腕、太い足。
そして、真っ赤な。真っ赤な身体。
緑色の眼を灯し、彼は目覚めた。
「俺の名前は『ジョーカー』、だな?」
事務的な口調で、目の前の少年に尋ねる。
登録情報が次々に流れ込み、彼がマスターだということをそれらが告げている。
「うん、僕は飛翔 紅。よろしく!」
笑顔で、小さな手を差し出す。
嬉しそうに目を細め、その白い手を差し出す。
二つの手が、一つになる。
「よろしく、マスター」
その純真な少年に、親愛を込めて返す。
「僕はマスターなんて名前じゃないよ、紅だよー」
ぷぅ、と頬を膨らませて怒る。
「ええと…」
ジョーカーが困ったように視線をさまよわせ保護者らしき人に視線を注ぐ。
「本人がそう言ってるんだ、そう呼んでやってくれ」
はは、と笑みを浮かべて赤い彼に言った。
「はい…。よろしく、紅」
「よろしく!」
満面の笑みを浮かべて答える。
それが彼らの最初の出会い。

それから、十数年を、もっと長い時を共にすることになる二人の出会い。

時に喧嘩し、時に笑いあい、時に悲しみを分かち合う。

そんな、人とメダロットの在り方の一つを彼らは作っていく。





  「現在」
少年は成長した。
悲しい記憶を封印し、過去を忘れて。
それでも消えないものはある。
「みんなが笑ってられたら、幸せ」
今はもういない祖父の言葉。
それは心の奥底にある、とても大事なもの。



そして、記憶の封印をとく鍵が見つかる。

幼き日に遊んだ少女と同じ髪の色をした少女との出会い。

鍵を開けた先で自分の非力さを痛感し、悲しみの淵に追いやられても。

少女の真摯な願い。

祖父の言葉。

それらが教えてくれた。

闘う理由は、もう見つかった。

誰の言葉でもない、自分が願うのは―――

「笑顔を護る為に…俺は、戦う!」

みんなの笑顔を、消させないこと。




もう、迷いはない。